いかにして民衆は独裁者を生んだのか
このレビューにはネタバレが含まれています
2021年1月27日 13時37分
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総合評価:
5.0
第二次世界大戦から突然現代にタイムスリップしたヒトラーが、ずれた現状認識、知識の欠如や生真面目すぎる弁舌などで(この映画の視聴者も含めて)人々の笑いをとり、コメディアンとして人気になっていく。その過程で移民に対する問題定義や政治不信などを市中、番組内で説き、ドイツ国民もそれに呼応していく。
視聴中、私は途中までこの作品はブラックユーモアにあふれた作品で、そのまま終わるものだと思っていた。しかし、物語後半、ホロコーストを生き延びた老女の一言で、物語は大きな転換点を迎える。劇的な演出があるわけではないのだが、この場面は非常に衝撃的だった。その後の演出も素晴らしい。特に最後、ヒトラーに対する民衆の反応の変化の描き方はとても効果的で、心がざわついた。
ヒトラーはなにも最初から独裁者として生まれたわけではなく、民衆が彼を独裁者として認めてしまったのだということを、忘れてはならないのだと思い起こさせてくれた。彼は人気者で、その素質があった。決して怪物や悪人として民衆の前に現れたわけではなかった。
ヒトラーが帰ってこずとも、私たちの民主主義は自分で独裁者を生み出す可能性があるのだと痛感させられる。もっと多くの人々に見てほしい映画だ。