フランティック
パリで開かれた学会に出席した米人医師とその妻。しかし、妻が突然何者かに誘拐されてしまったことから、医師は言葉の通じないパリを奔走し、妻の行方を追う。
"映像の魔術師ロマン・ポランスキー監督による、縦の構図を駆使してサスペンスの醍醐味を堪能させてくれる「フランティック」" この映画「フランティック」は、ロマン・ポランスキー監督がアメリカで事件を起こし、ヨーロッパへと移った後に撮った、ワクワクする面白さ、楽しさに満ちた会心のサスペンス映画です。 主人公のウォーカー医師(ハリソン・フォード)は、学会出席のため、妻と20年ぶりにパリへやって来ます。だが、彼がシャワーを浴びている間に、突然、妻の姿がホテルから消えてしまいます。サスペンスの名手でもあるポランスキー監督による快調な滑り出しで、我々観る者をいきなり、このポランスキーの映像魔術の世界へと誘ってくれます。 どうやら、空港で間違えたスーツケースに何か関係があるようだ?----。警察に妻の失踪依頼をするものの、言葉の通じない異国の地、頼みとすべき警察は思うように捜査をしてくれず、当てになりません。 そこで、自ら妻探しに乗り出したウォーカーは、妻を探してパリ中を走り回ります。このハリソン・フォードの妻を探して一途に突っ走るその姿に、思わず応援したくなる程の緊迫した緊張感のある演技を披露してくれます。この映画の3年前に出演した「刑事ジョン・ブック/目撃者」で演技開眼したハリソン・フォードは,実に感情表現のうまい役者になったものだと驚かされます。 見えざる恐怖が、異国の地の旅行者に不気味に降りかかるという設定が、見事に心を突き刺す仕掛けとなっていて唸らされます。そして、新星エマニュエル・セイナーの妖しい美しさもこの映画の大きな魅力のひとつとなっています。 そして、何と言ってもポランスキー監督の演出はさすがだと思わせてくれます。まず画面に深みがあるのです。例えば、手前にシャワーを浴びている夫。ガラスの向こう側で何か言っている妻。しかし、それは夫には全く聞こえません。すると、その妻がスッと左に消えます。 この夫、ガラス、妻、見事に焦点が合っていて、"縦の芝居"が鮮烈なサスペンス効果を生んでいるのです。 それから、屋根の先端へ落ちた物を何とか取ろうと、手を差し伸べる謎の女、そして、その女を助けようとするハリソン・フォード----。ここでも、"縦の構図"がぴたりと決まるのでスリルが倍増して、ワクワク、ハラハラの興奮と緊張感が味わえるのです。ポランスキー監督の計算され尽くした演出の腕が冴え渡ります。 そして、このような部分部分の効果だけではなく、この映画では"縦の構図"の奥にパリの街が常に"存在"して、ドラマを語っているのです。 とにかく、このように、なまじっかな論理を捨て去って、"映像の魅惑"で我々観る者をたっぷりと楽しませてくれる、ロマン・ポランスキー監督による極上のサスペンス・ミステリーの傑作だと思います。
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