映画ポップコーンの評価
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この映画「海と毒薬」は、大平洋戦争の末期に、九州大学の医学部で実際にあったアメリカ軍捕虜に対する生体解剖事件を基に書かれた遠藤周作の問題作を、社会派の名匠・熊井啓監督が、極力、事実に忠実に再現している作品だ。 戦後の軍事裁判で、この生体解剖に参加した教授たちなどは有罪になっている。 まず、戦時下の大学病院の実態がシビアに描かれる。有力者からの紹介などで特別に丁重な治療を受ける患者もいるが、貧しい、いわゆる施療患者たちなどは、お上の慈悲にすがって生きているという意識の下に置かれていて、自己主張もせず、診察を受けるのにもおどおどしており、患者としての人権を尊重されているとは言い難いような状況になっているのだ。 九州を空襲して撃墜されて捕虜になったアメリカ空軍の兵士たちは、無差別爆撃で一般市民も殺しているのだから、捕虜というより戦争犯罪者だ、殺してしまえ、という考え方、空気が日本軍にはあり、軍司令部は彼らを正規の捕虜として扱えという指示をせず、あいまいな態度をとったのだ。こうした状況の中、軍医たちが野蛮な敵愾心を燃やして、生体実験を求めたのだ。 そして、大学病院の中ではお定まりの人事抗争が渦巻いていた。軍が大学に対しても大きな影響力を持っていた時代で、不利な立場に置かれた教授(田村高廣)は、保身のために軍におもねるようにして、生体実験に踏み切るのだった------。 ドラマの中心になるのは、奥田瑛二の演じる医学部研究生の勝呂で、教授の命令で彼は否応なく、生体実験の助手をつとめなければならなくなるが、ひどく苦悩し、良心の呵責に苦しみ、遂に生体実験という名の殺人に加担する事は出来ずに、その場で怯えてすくんでしまう。 一方、彼の同僚の医学部研究生の戸田(渡辺謙)は、勝呂とは対照的に、良心の呵責にこそ苦しまないものの、人間的な感性が欠如しているのではないかと悩みはするが、どうせためらったって仕様がないと腹をくくって、与えられた役割をやってのける。 調べた事実は、徹底的に正確に再現する事で知られている熊井啓監督は、手術室における当時の作業のやり方などを、極力、正確に再現して見せていて、この手術シーンがリアルに描かれていて驚いてしまう。 また、この映画の核となるのは、輸血の代わりに食塩水を注射する事がどこまで可能か、といった残酷な実験が戦争の名のもとに平然と実行されていく恐ろしさを、二人の青年医師の目を通して問いかけているところだと思う。 遠藤周作の原作は、この生体解剖事件を通して、"神と人間の問題"を追及しているのに対して、この熊井啓監督の映画化作品は、より政治的な意味合いを色濃く持っていて、"時代と人間"という社会的なテーマに焦点を絞っているように思う。 この作品で、より重要に描かれるのは、当時の"時代の雰囲気"だ。 みんなが言いたい事を言わず、周囲の情勢ばかりを気にしている時、調子のいい事を言う人間の威勢のいい言動だけが、全体を大きく動かす事になり、反対出来ない流れをつくり出す。 その重苦しい、"時代の閉塞感"や、大きな"心理的圧力"が、くっきりと描き出されていると思う。
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