映画ポップコーンの評価
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チャールズ・ブロンソンという俳優は、アメリカ時代は脇役専門の俳優で、割りと地味な存在だったが、フランスへと渡り、アラン・ドロンと共演した「さらば友よ」や、名匠ルネ・クレマン監督と組んだ「雨の訪問者」で一躍有名になり、先にヨーロッパと日本で人気が爆発し、その後、1970年代の初めにハリウッド映画に返り咲き、次々とヒット作を飛ばし、百万ドルスターになっていったのだ。 しかし、拳銃をぶっ放して復讐するマフィア等を演じているうちは、単なるフラストレーション解消用の代償作業としての暴力派スターだったが、マイケル・ウィナー監督と組んで主演したこの「狼よさらば」で、ニューヨークに住む一市民、一父親が、街のダニに復讐する役を演じて、初めてアメリカ人の琴線に触れることになるのだ。 三人組のチンピラが家に押し入り、妻を殺し、娘を暴行する。 娘はそのため気が狂ってしまう。 残されたブロンソンは、設計技師という設定で、それまで良心的な反戦論者だったが、仕事先のアリゾナへ行った時、西部の人間から銃の魅力をたきつけられるのである。 「都会人は銃を毒ヘビのように恐れているがバカげている。ここでは単なる道具で、誰もが持っているから平和なのだ」と。 そして、復讐心を駆り立てられたブロンソンは、銃を手に入れ、都会に帰ってチンピラ掃除を始めるのだ。 それも、妻や娘を苦しめた直接の犯人を探すのではなく、一人、二人、三人と手当たり次第に、彼が認めた"悪"を抹殺していくのだ。 世論はこの無名の粛清者を支持し、警察も黙認する。 そして、最後にはブロンソンと身許がバレるのだが、警部は「この街を出て行くなら、今まで使用した銃は川へ捨てよう」と提案し、ブロンソンはシカゴへ去るというストーリーだ。 考えてみると、この映画には様々な問題が内包されていると思う。 まず、ストリート・クライムと言われるひったくり、窃盗から強盗、殺人までの暴力が、日常的にはびこっている、この映画で描かれた1970年代の荒廃し切ったニューヨークという街の生々しい実態がある。 当時のニューヨークという街は、かつては"人種のるつぼ"であったが、近代化の波が押し寄せ、都市の中間層がすっぽりと抜け、大ビルとスラムに変貌し、同時に都市として破産状態に陥っていたのだ。 警察による街の治安の不徹底という要因もあったのではないかと思う。 肝心のその警察も、シドニー・ルメット監督、アル・パチーノ主演の映画「セルピコ」で描かれていたように、汚職と腐敗にまみれていたのだろう。 しかし、低賃金で危険にさらされる現場の警官はやり切れたものではない。 もちろん、市民の不信、非協力も相関関係をなしていたのかも知れない。 そして、拳銃の入手の容易さは言うまでもない。 この映画の中で、市民はチンピラ掃除をする死刑執行人のブロンソンを支持している。 いわゆる、目には目をということだ。 警察のメンツ丸つぶれの警部は、闇から闇へ事件を葬ろうと、市街への退去を提案する。 こうして、法によって守られ保証されたブロンソンは、晴れ晴れとした表情でシカゴの街へと去っていく--------。 この映画が製作された1970年代の前半は、ヴェトナム戦争の終末期であり、その戦後処理の過程にある時期でもあった。 ウォーターゲート事件を頂点に、上は大統領から、あらゆるものの権威が失墜し、精神的にも生活的にも混乱の最中にあったのだ。 この映画の邦題である「狼よさらば」というのは、当時のブロンソン主演の話題作の「狼の挽歌」と「さらば友よ」を安易に合成したもので、原題は「デス・ウィッシュ」、つまり"死の願望とか殺人願望"という意味で、この映画のテーマは、アメリカ人好みの"西部開拓期の自衛精神"を攻撃的に塗り替えたものとして、アメリカで好評だったのだろうと思う。 現に、このドラマの主人公は、アリゾナへ出張した時、この精神を拳銃と共に仕入れてくるのだ。 愛する妻と娘の復讐をする父親とは、まるでジョン・ウェインの西部劇を観ているような設定だ。 また、この映画で見逃してはいけない、もう一つのテーマは、"殺人者にも第二の人生がある"という、寛大さの容認ではないかと思う。 例えば、サム・ペキンパー監督、スティーヴ・マックィーン主演の映画「ゲッタウェイ」で、更生しようと思っている元銀行強盗のマックィーンが、なぜか釈放になる。 悪徳政治家が仕組んだ工作で、実は銀行強盗をマックィーンにやらせて殺害し、全て自分のものにしようというのだが、途中でこれを知ったマックィーンが、愛人と共にギャングをなぎ倒し、パトカーも蹴散らし、悠々とメキシコへ逃げ込むというものだ。 舞台はテキサスで、テキサスの小さな町ならこんなことも起ころうと設定されたあたり、テキサス州民なら面白くないだろうが、これが単なるギャング映画とは思えなかったところが、"時代の産物"たる所以なのかも知れない。 これは、徹底した権力無視の映画であり、それほど持ち上げて評価するのはどうかとも思うが、大ヒットした裏には、この「狼よさらば」と共通したテーマがあったからではないかと思う。 ブロンソンも死刑執行人、マックィーンも死刑執行人であり、共に犯罪者。 だが、ヴェトナムで大量殺戮を企画したお偉方よりは、遥かに罪は軽い。 彼らは時代の申し子なのだから、新しい人生を持って当然ではないか、といった"暗黙の了解"が、これらの映画を支えたのだと私には思えるのだ。 そして、映画というものは、時代を写す鏡であり、時代を無意識のうちに呼吸して生きているのだということを、この映画は証明しているように思う。
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