鋼のボディにも熱き血潮と涙が流れる
2021年7月28日 18時22分
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総合評価:
4.0
通勤電車に乗り込んで都内の巨大なビルの群れへと向かう、ひとりのアメリカ人男性の鬱屈とした横顔がオープニングを飾ります。日本人でさえウンザリしてしまう満員の車内や息苦しいオフィスに、主人公アンソニーが神経を磨り減らしていくのは無理もありません。そんなアンソニーにとっては心のオアシスとなる妻のゆり子の優しさ、何よりも守りたい息子・トムの無邪気な笑顔。ある日突然に家族に降りかかる不条理な悲劇と、アンソニーの暴走していく姿が痛々しいです。
全編を通してモノクロームを背景にして進行していきますが、ここぞという見せ場で画面が赤く染まっていく演出が鮮烈です。両手が拳銃に変化して胴体が鋼鉄化していくグロテスクなシーンにも、夫でもあり父でもあるひとりの男性としての悲哀を感じてしまいました。
1989年に公開された「鉄男」で主演を務めていた田口トモロヲが、「歯磨き男」として一瞬だけ登場するなどサービス精神も忘れていません。 これまでのシリーズでは多くを語ることなく幾つかの謎を残して終わっていくスタイルを貫いてきましたが、今作では海外の観客を意識し過ぎたためか若干説明が多かったのではないでしょうか。