北野武監督の王道を照れずにやってのける覚悟が見て取れる、仁義なき群像劇
2025年4月22日 09時04分
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総合評価:
4.0
この映画「アウトレイジ」には、北野武監督の王道を照れずにやってのける覚悟が見て取れる。
ストーリー然り。組織の中で仕掛けられたちょっとした小競り合いが、凄惨な組織のつぶしあいに発展する一方で、腹黒く狡猾な連中は、状況を利用して、権力を手中に収めようとするという、仁義なき群像劇だ。
キャスティング然り。これまでは、敢えて起用を避けてきたようなオールスターの演技者が並ぶ。
殺しのシーンから逆算し、精緻に組み立てられた脚本には、いろいろなレベルで伏線が張られており、緊張と笑いのバランスを巧みに操り、一気呵成に突っ走る109分になっている。
払ったチケット代は、きっちり楽しませるプロの仕事たらんとする気合がスクリーンに漲っている。
その結果、過剰な自意識やヒロイックな自死願望は消えた。
行間はそのままに、寡黙さが消え、セリフはやたらに増えた。
バイオレンスは、痛さはそのままに、しかし軽く、マンガ的になった。
編集からは、唐突な暴力性が消え、びっくりするぐらいスムーズになった。
ある意味、「普通」の作品に近づいたと言えるだろう。
しかし、普通に接近するほどに、普通の枠にははまらない、北野武の個性も際立ってくるところが面白い。
この作品にも、いつのまにかスッと忍び込んできて、日常を異化してしまう暴力の恐怖は健在だし、オフビートな笑いもそこにある。
暴力的で威圧的なセリフが、気が付けば掛け合い漫才という面白さは、これまでの作品になかったものだ。
だが、彼のキャリアを考えれば、これが北野流コメディのひとつの完成形だろう。
そして、息を呑むような素晴らしいショットもある。
何より、一見単純でありふれたストーリーの裏から、これまでの作品とも底の部分で通じる組織や社会構造、人間に対する彼独特の観察眼と世界観が浮かび上がってくる。
弱小ヤクザ組織が、上位組織の裏切りによって破滅していくところだけを切り出せば、ヤクザ映画として出発しながら、何か違うものに変質していった「ソナチネ」と同じだが、この作品はあくまでヤクザ映画、あくまで分かりやすいエンターテインメントという制約の中で、初期の北野武作品とは全く別のベクトルで仕上げられていると思う。
ともかく、北野武はもう終わっちゃった作家なのではなく、まだ始まっていない、ということだ。
何かをふっきって再度、この作品でスタート地点に立った。
この人は、同じ場所を堂々巡りするのではなく、新しい地点に向かおうとしている。
この作品を見る限り、まだまだ期待していいのだと思う。