映画ポップコーンの評価
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昭和51年、当時の"時代の寵児"とも言うべき角川春樹が出版界から映画界へ華々しく切り込んで来た時に「映画は芸術なんてカッコいいもんでなく芸能ですよ」と語っていたのは有名な話ですが、同年10月に公開された「犬神家の一族」以来、彼はこの言葉通りの路線を脇目も振らず、一直線に突き進んでいきました。 そんな角川映画のある段階での総決算とも言えるのが、この「里見八犬伝」で、当時の製作費で10億円をかけ、角川映画としてはそれ以前の「復活の日」と並ぶ超大作であり、角川春樹のロマンが込められていました。 つまり、この映画は"日本的SF"であり、"日本人のロマン"であると共に、主演の薬師丸ひろ子の"アイドル映画"であり、彼女と真田広之をスターにした"青春ドラマ"でもあったのです。 この映画の前に製作された「戦国自衛隊」は、角川映画としては画期的な作品で、当時、彼は「時代劇の中にSFを盛り込んだ青春映画を創りたい」と抱負を述べていましたが、この半村良原作の映画は、タイム・スリップによって過去の歴史に近代を持ち込むというユニークな発想が、映画の持つ楽しさに満ち溢れていましたが、この異色のSF時代劇が「里見八犬伝」に受け継がれ、更に伝奇的な幻想怪奇ロマンとしてヒートアップされているように思います。 それは「戦国自衛隊」のアクション監督兼主演が千葉真一で、彼の率いるJAC(ジャパン・アクション・クラブ)が「里見八犬伝」という映画に大きなエネルギーをもたらしている気がします。 映画「里見八犬伝」の原作は、鎌田敏夫著の「新・里見八犬伝」ですが、この"新"八犬伝はまさに角川春樹独自のユニークな発想を小説化したもので、江戸時代の大衆文学の傑作、曲亭馬琴の「南総里見八犬伝」の中では全く見当たらない、若い二人の青春ロマンを新しいテーマとして描いているように思います。 しかし、もともと曲亭馬琴の「南総里見八犬伝」は、神秘的で伝奇的な怪奇幻想に満ちており、その異様なムードと奇想天外な展開と、八犬士の活躍は、昔から多くの"少年達の心を血沸き肉踊らせて来たもの"だけに、日本的なロマンの原点を継承するものだったのだと思います。 そして、この"八犬伝"の映画化に着目し、映画化に向け、構想10年に及ぶ執念を持ち続けてきた角川春樹の情熱こそ、当時の沈滞していた日本映画界復調の起爆剤になったのでした。 角川映画としての最高傑作は、やはり「蒲田行進曲」ですが、その映画の深作欣二監督の職人芸が、この「里見八犬伝」でも存分に発揮されています。 映画の原点である活動写真の持つ楽しさ、面白さを「蒲田行進曲」では心ゆくまで堪能出来ましたが、この「里見八犬伝」では更に真正面から押し出されているような気がします。 荒唐無稽な見世物に徹する深作欣二監督は、日本映画のありとあらゆる手法を駆使して飽く事を知りません。 カット、カットで積み上げるスピード感溢れる画面作りは彼の真骨頂で、迫力のあるアクション・シーンは、我々観客を夢中にさせ、圧倒してやみません。 現在の日本映画の特に若い監督達の長回しシーンでは、このような活劇のワクワクするような爽快感、壮快さはとても表現出来ません。 そしてこの映画の白眉ともいえる、八犬士が立ち向かう館山城の妖怪軍団(夏木マリ、目黒祐樹など)の魑魅魍魎的な健闘も、この映画の面白さを非常に際立たせていて最高でした。 その魑魅魍魎の跳梁を生き生きと映像化した特撮、それにスペシャル・メークや美術などのどれもが素晴らしく、また、ロック・ミュージックをバックにしたジョン・オバニオンの主題歌が意外に映像とマッチしていたのも新鮮な驚きでした。 現在の日本映画が忘れている、我々観客を熱狂させ、興奮させるような、映画の原点とも言える"荒唐無稽な見世物に徹する、血沸き肉躍るロマン溢れる冒険活劇"を期待したいものです。
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