蘇える金狼
朝倉哲也は表向きは平凡なサラリーマンだが、夜は身体を鍛えて巨大資本乗っ取りを企んでいる。朝倉はある日、手に入れた麻薬で上司の愛人、永井京子を手なずけた。しばらくして会社幹部達の横領事件をネタに、桜井という男がゆすりに来ていることを突き止めた。朝倉は桜井と会社を巧みに利用して社長令嬢の絵理子と婚約することに成功するが、その一方で嫉妬に燃える京子は、ある決意をしていた。
古臭い、笑えるとつぶやきつつ、つい引っ張られて観てしまう。 村川透監督の「蘇る金狼」はそんな映画だ。 1979年の公開だから、描かれる風俗が古臭いのは仕方がない。 大藪春彦の原作も、劇画的な展開が顕著な一気読み小説だった。 話は典型的なピカレスクロマンだ。主人公の朝倉(松田優作)は、東和油脂の経理部に勤めている。 七三分けの長髪と黒縁の眼鏡。だが、夜の朝倉は狼だ。 ジムでサンドバッグを叩く彼の上半身には、見事な筋肉が盛り上がっている。 朝倉は銀行から輸送中の現金を奪い、金を麻薬に換え、麻薬を使って女を操り、甘い汁を吸いたい放題の会社中枢部へにじり寄って行く。 つまり、この映画は悪党のオンパレードだ。悪には悪を、毒には毒を。 法も正義も介入しない伏魔殿で、社長(佐藤慶)や部長(成田三樹夫)や次長(小池朝雄)や議員(南原宏治)や強請屋(千葉真一)や私立探偵(岸田森)らが果てしない暗闘を繰り広げる。 まるで怪優たちのオールスター・ゲームではないか。 そして、饗宴の中心で強力な磁力を放つのが、松田優作だ。 団塊の世代に属する日本映画の俳優で、運動神経や身体能力に彼ほど自覚的な人はいなかった。 だからこそ、優作の「狂気芝居」は、きわどく成立する。 ただ、あまりにも、原田芳雄そっくりのセリフ廻しだけはいただけないが。 東京湾第二海堡で撮影されたアクション・シーンの速さは、優作の動きと、カメラマンの仙元誠三の力量に負うところが大きいと思う。
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