フランスの作家ロベール・メルルのベストセラーSF小説の映画化作品
2024年2月11日 18時07分
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総合評価:
3.0
マイク・ニコルズ監督の「イルカの日」は、フランスの作家ロベール・メルルのベストセラーSF小説の映画化で、脚本を「卒業」「キャッチ22」の才人バック・ヘンリー、音楽をフランソワ・トリュフォー監督映画でお馴染みのジョルジュ・ドルリューという魅力的なスタッフが結集しています。
イルカの言語能力の開発によって、人とイルカという異種間のコミュニケーションに到達しようとする海洋生物学者(反骨の名優ジョージ・C・スコット)の科学的な努力が、南海の澄み切った自然の中で、次第に博士とイルカとの純粋な交流が愛情となって育まれていく前半部が、特に素晴らしかったと思います。
マイク・ニコルズ監督の、人間とイルカに向ける優しい眼差しと瑞々しい感覚にあふれる演出と、また、この映画を担当したジョルジュ・ドルリューの哀愁を帯びて、我々、映画を観る者の心の琴線をふるわせる、繊細でリリカルなメロディのテーマ曲が全編に流れ、映画音楽の持つ力の素晴らしさに、しばし映画的魅惑の世界に誘い込まれてしまいます。
特に、アルファ(愛称ファー)とビーという名前の2頭のイルカの演技が素晴らしく、水槽の中を2頭が揃って泳いでいるシーンや水槽の仕切りを飛び越えようとする、あまりにも美しく心を洗われるような流麗な映像は、この映画の白眉とも言える程、鮮烈で見事なシーンだったと思います。
しかし、このイルカを大統領暗殺計画に使おうとする政治的な陰謀が展開する後半は、文明に毒された醜悪な人間との対比で、イルカの純粋無垢な美しさが我々、観る者の胸を打つものの、SF仕立ての安易な冒険物のストーリーに堕してしまったのは、返す返すも残念でなりません。
どうも、製作者側の意図する、動物映画と政治サスペンス映画とSF映画と人間ドラマ映画の観点を全て詰め込もうとするあまり、それぞれが全て中途半端になったように思います。
SFや政治サスペンスという原作の小説の呪縛から解き放たれて、陸と海の、それぞれの哺乳動物の代表である人とイルカのナイーヴな愛情の交流に絞れば、ラストの博士夫妻とイルカたちとの悲しくも切ない別れのシーンがあまりにも素晴らしく、余韻を残すものだっただけに、もっとこの映画の感動が高まったであろうと惜しまれてなりません。