審判
この映画「審判」は、不条理な世界を描き続けたフランツ・カフカの同名小説の初めての映画化で、「市民ケーン」のオーソン・ウェルズが監督としてメガホン取っています。 ある朝、突然、何の理由も説明されないまま、当局によって"有罪"を宣告された、銀行の副部長ヨーゼフ・K(アンソニー・パーキンス)。 だが検察官も刑事も彼の罪状を知らず、身柄を拘束する必要もないと言い放ちます。自由の身のまま、一挙手一投足を監視され、次第に疲弊していくヨーゼフ・K。 そして、呼び出された法廷は大群衆がひしめき合う廃墟となった劇場で、とても裁判官とは思えぬ下品な司直が無意味なおしゃべりをするばかり。 ヨーゼフ・Kが雇った弁護士の仕事は一向に進展せず、いつまで待っても無罪を勝ち取れません。そのため彼は、裁判の全貌を知ろうとあがきますが、その機構も、審理の過程も、罪状さえもわからないまま追い詰められていきます。 更に、伯父の勧めでとある高名な弁護士を訪ねたKは、それから現実なのか空想なのかわからない奇妙な人間たちの間を往復した揚げ句に--------。 この映画を観ていると、巨大な社会の中の一個人の運命が、何か目には見えない、遥か天空の全く無縁の場所で左右されていて、本人の意志などまるで無意味なんだと思い知らされるような気がします。 そこで犠牲者たるべきKが、共感を呼ぶ存在かというと、そうて゛もないというところが面白いのです。 逮捕される前、彼は銀行の副部長の地位に安住し、自分が拘束されているとは考えもせず、優秀な男だと自惚れていたのです。 そして、逮捕後は、裁判からも自分を縛ろうとする弁護士からも解放されたいと願うくせに、会社の歯車のひとつである事には、やっぱり抵抗を感じていないのです。 この愚かしいまでの"無感覚"に、同情は不要だと思いますが、Kの犯した罪がまさにそれだ、という解釈も出来るような気がします。 つまり、自分が"自由な一個人"だと呑気に思い込んだ罪なのです。 とにかく、この映画を観ている間中、何もかもが歪んだ世界で、主人公のヨーゼフ・Kが、まさに小突き回される姿には戦慄を覚えずにはいられませんでした。
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