理性と愛を知らない男の人生
このレビューにはネタバレが含まれています
2021年5月18日 20時47分
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総合評価:
3.0
ヤン・ソギル氏原作の「血と骨」。
一度知人にDVDを借りて観たことがあるのですが、初回鑑賞時は「よく分からないが暴力と愛欲に塗れた男の話」という印象しかありませんでした。
後年になって原作の小説を読む機会があったのですが、読了後に改めてこの作品を観たくなり鑑賞。
物語のベースは昭和初期の大阪のコリアンタウンに生きた金俊平という一人の在日朝鮮人の男の人生を描いた作品なのですが、この俊平という男が相当にヤバい人物で、例えるなら理性のない獣が真っ黒な瘴気を纏い歩いているような危険な男。
家庭があるにも関わらず家族を省みることはなく、自分の生きたいように生き、気に入らないことがあれば直ぐに暴力を振りかざす。自宅の前に家を借りて愛人とそこで新生活を営み始める。
そんな男に振り回され続けた家族の悲哀が痛々しく描かれてはいますが、個人的に戦後のコリアンタウンの活気のある姿や、俊平の妻やまわりの女たちの、男に従属しようとはせず逞しく生き抜こうとする様子の描かれ方は好きです。
俊平の理性のない性と暴力が、野性的な、人間と言うよりは動物としての生き方を感じさせます。
原作は前後巻に分かれてまで緻密に書かれていたものなので2時間ちょっとの映像にまとめ切ろうとするには情報量が多すぎた?色々と必要なところが削られているようで、原作を読んでいない方はあまり感情移入して観られないかもしれません。