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「絶望を突き抜けた明るさと活力に満ち、ひと筋の光明を見出す、優れた女性映画の秀作」 アリスの恋 dreamerさんの映画レビュー

アリスの恋 ALICE DOESN'T LIVE HERE ANYMORE

絶望を突き抜けた明るさと活力に満ち、ひと筋の光明を見出す、優れた女性映画の秀作

2024年2月6日 18時44分 役立ち度:0人
総合評価: 5.0
子連れ未亡人の絶望を突き抜けた明るさと活力を描いた、女性映画の秀作「アリスの恋」

アメリカン・ニユーシネマの先駆けとなった「イージー・ライダー」(デニス・ホッパー監督)で描かれた若者たちの当てもなく彷徨し、放浪の旅へ出かけるモチーフは、それ以後のニューシネマの作品に連綿として息づいていたと思います。

そして、この映画史の流れは、1970年代後半に隆盛となった"女性映画"へと繋がっていき、女性の生き方や生活感情をリアルに描いていきました。

こうした映画史的な流れの中で、映画「アリスの恋」は、ニューヨークのアクターズ・スタジオという演劇学校で、役者が観客の前で出来る限り自然に肉体と心を動かし、真の意味での生きた芝居をする、”スタニスラフスキイ・システム"を大胆に取り入れました。

人間の内面から役になりきる、自然でリアルな"メソッド演技"の代表的な女優のエレン・バースティン扮する中年女性のアリスが、夫を交通事故で失い、幼い息子を連れて、生きるために職を求め、アメリカ国内を放浪して歩くという、一種のロードムービーとも言える、アメリカン・ニューシネマを代表する女性映画の秀作です。

アリスが、新しい人生を発見していくまでの姿を、日常性豊かに、ユーモアも交えながら、リアリズムで綴っていきます。

監督は、マーティン・スコセッシ。
喘息病みのため、子供の時から映画館に入りびたりだったという、生来の映画オタクである事は、この映画の始まるメイン・タイトルの異常な凝りようや、ファースト・シーンの、アリスの少女時代の古めかしい描き方を見てもわかります。

また、逆光の使い方やジョン・F・ケネディ大統領の引用にも、アメリカン・ニューシネマの、当時としては斬新な感覚が生きていると思います。

彼は、この映画でリアリティのある女性を描くために、製作者、編集者、美術のスタッフは、全て女性で固め、女性と組む事で、女性の感覚からみておかしいと思う場合には、撮影現場で遠慮なく変更の提案をさせ、そのためにアドリブの部分が多くなったとの事です。

女性を描くためには、同時に男性が描かれなければなりませんが、トラック運転手で事故死した粗暴な夫、旅の途中でアリスに求愛する男達を通して、暴力的な本性丸出しの男の姿が、女性の不信の対象としてリアルに見つめられています。

そして、最後に知り合った男が、牧場を持つカウボーイ(クリス・クリストファーソン)で、息子に対する暴力の中から男の本当の愛情を見出し、スッタモンダの末、ラストではこの二人が結ばれる事になります。

この映画の中で心に残る印象的なセリフ、「----男なしではどうしたらいいのよ」と語るアリスの弱気な言葉は、「あたしの人生なのね、あたしの! 誰かの人生で、あたしが助けてやろうっていうんじゃないんだわ」という健気な言葉と矛盾するものではないところに、生活と闘うこの女性の人間的な深さが出ていたのではないかと思います。

また、この映画の、もう一人の主役は、12歳の息子を演じたアルフレッド・ルッターで、存在感のある素晴らしい演技を披露しています。

むしろ、この映画は母子家庭の微妙な親子の感情がメインテーマであり、思春期に入ろうとするこの子供が、母親の男関係を見つめる心の揺れと、一人前の男へと脱皮していく過程に重点が置かれているという見方も出来ます。

この中年の子連れ未亡人は、抑圧された不幸な結婚から解放されて、少女時代からの夢であった歌手への途を求めて、ニューメキシコからフェニックス(ここでの昼下がりの街を職探しのためにバーを巡るところのうら悲しくて切ない場面のエレン・バースティンの演技は鳥肌が立つくらいに凄い演技を示しています)、そしてツーソンの街へと広大な大陸を横断しての旅を続けて行きますが、その夢も空しく、レストランのウエイトレスしか仕事がないという現実の厳しさ-------。

ラストの牧場主と結ばれる結末は、安易だという評価が、公開当時あったそうですが、しかし、個人的には、映画というものはやはり、ハッピーエンドの方が後味が良いと思っています。

この映画の原題は、「ALICE DOESN'T LIVE HERE ANYMORE」といって、アメリカの古くからあるスタンダード曲から採られていますが、この題名の意図するところからして、この安住の地だと思われた牧場主との生活も、アリスが一生落ち着くところかどうかわからない----とマーティン・スコセッシ監督は暗示しているのかも知れませんが。

しかし、アリスのような愛すべき女性は、どうか幸福であって欲しいと心の底から祈りたくなって来ます。

漂泊の子連れ未亡人を描いたこの「アリスの恋」は、絶望を突き抜けた明るさと活力に満ちたところに、ひと筋の光明を見出す、優れた女性映画の秀作だと思います。

なお、この映画は1974年度の第47回アカデミー賞で、最優秀主演女優賞をエレン・バースティンが受賞し(映画史に残る名演技!)、1975年度の英国アカデミー賞で、最優秀作品賞、最優秀脚本賞(ロバート・ゲッチェル)、最優秀主演女優賞、最優秀助演女優賞(タイアン・ラッド)を受賞しています。
詳細評価
  • 物語
  • 配役
  • 映像
  • 演出
  • 音楽
イメージワード
  • ・切ない
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