ピーター・マーズのベストセラー小説「マフィア/恐怖のシンジケート」の映画化作品
2024年2月1日 18時28分
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総合評価:
3.0
この「バラキ」は、ノン・フィクションの映画化としては実証性が希薄で、ギャング映画としては事実に足を引っ張られて、フィクション化が不徹底な作品だと思います。
この映画「バラキ」は、監督が007シリーズの初期の監督を務めたテレンス・ヤング、製作がイタリアの大プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティス、音楽がリズ・オルトラーニという、映画好きにとっては、この名前を聞いただけで、ワクワクするようなメンバーによる作品ですね。
そして、主演のチャールズ・ブロンソンと監督のテレンス・ヤングのコンビとしては、「夜の訪問者」、「レッド・サン」に続く3度目の作品になりますね。
この映画の原作は、「セルピコ」の原作者としても有名なピーター・マーズの大ベストセラー小説の「マフィア/恐怖のシンジケート」で、映画化に当たっては、当時、関係者が獄中で存命中であり、彼の指示で暗殺等の危険性もあった為、関係者の死後、製作されたといういわくつきの作品なんですね。
マフィアの準幹部だったバラキ(チャールズ・ブロンソン)が、組織に欺かれ、復讐のためにマフィアの組織、コーザ・ノストラの内情をFBIの係官にぶちまけるが----という内容ですが、当時、同時期に公開されていた「ゴッドファーザー」と同様に、残虐な場面が話題を呼び、一度足を踏み入れたら抜けられない、血のファミリーの怖さを描いた実録物として評判になった作品でもあるんですね。
このピーター・マーズの原作は、ジョセフ・バラキ、映画の中ではバラチと発音していましたが、彼の告白をもとにしたノン・フィクション・ルポルタージュとも言うべきもので、バラキがどんな人間であったのかも、よく観察して表現していたと思います。
私は、この原作を先に読んでから、映画を観たのですが、テレンス・ヤング監督の映画の方は、一応、事件の起こった日時などが画面に出て来て、実話的な感じを出そうとしているようなのですが、脚色も演出も、完全なギャング映画のスタイルになっていて、実話の映画化といった実証性に乏しかったような気がします。
それでいて、登場する人物には、一応、実在の人物らしい似せ方もしようとしています。
つまり、ノン・フィクションとしての興味と、ギャング映画的な面白さとをいっしょくたに、まぜこぜにしてしまったような映画になっているとの印象を受けました。
だから、ノン・フィクションの映画化としては、実証性が希薄だし、ギャング映画としては、事実に足を引っ張られてフィクション化が不徹底になっているのだと思います。
娯楽映画の職人監督のテレンス・ヤングとしては、あまりにも欲張りすぎて、かえって中途半端な映画になってしまったという気がします。
そのような、この映画の欠点は、主人公バラキの描写に、はっきりと表れています。
実話の映画化としては、映画のバラキは朴訥な好人物でありすぎるし、ギャング映画の主人公としては、粒が小さくて、アクの強い魅力にも乏しい気がします。
ブロンソン自身も演じていて、やりにくかったんじゃないかという気さえしてきます。
これを劇映画のつもりで観る人は、恐らく、劇中の人間関係の複雑さにちょっとついていけない感じを受けるのではないかと思います。
さいわい、私は原作を先に読んでいたので、人間関係はよくわかりましたが、その代わり、人物の描写がかなり平板でチャチだったのに不満を覚えました。
例えば、国外逃亡していたバラキのボスのヴィトー・ジェノベーゼ(リノ・ヴァンチュラ)が、ニューヨークに帰って来た時、波止場で出迎えの連中に対して、すぐ麻薬の話を始めますが、そういうところが、いかにも通俗的なギャング映画のようで、安っぽい感じがしましたね。