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「スティーヴン・ソダーバーグ監督の渾身の社会派群像劇の秀作」 トラフィック dreamerさんの映画レビュー

トラフィック TRAFFIC

スティーヴン・ソダーバーグ監督の渾身の社会派群像劇の秀作

2024年2月16日 23時11分 役立ち度:0人
総合評価: 5.0
この映画「トラフィック」は、スティーヴン・ソダーバーグ監督の渾身の社会派群像劇の秀作だと思います。

この映画「トラフィック」は、アメリカとメキシコの間に横たわる巨大な麻薬コネクション、"トラフィック"の凄まじい実態と、それを巡る様々な人間模様をスティーヴン・ソダーバーグ監督が、迫真のドキュメンタリー・タッチで描いた社会派群像劇の秀作です。

もともと1989年にイギリスのBBC放送が、テレビシリーズとして放送していた物から、麻薬というものに絡めとられた、それぞれ立場の異なる人々の物語というテーマをもとにして再構築された映画で、ストーリーは三つのパートから構成されていて、無数の人々の生々しい人生が交錯していく群像劇の形式で撮られています。

メキシコのティファナで、アメリカとの国境警備を行なう警官ハビエル(ベニチオ・デル・トロ)が、麻薬組織の権力と金に翻弄される姿と、彼の相棒が汚職を暴露しようとして殺されるというパートは、黄色がかった色彩で描かれ、アメリカのオハイオ州で麻薬取締連邦最高責任者に任命されたロバート(マイケル・ダグラス)が、優等生だと思っていた娘が麻薬に溺れている事実を知って愕然となるパートは、青く灰色がかった色彩で描き、そして、アメリカのサンディエゴで裕福に暮らしていた妊娠中のヘレーナ(キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)が夫が突然逮捕され、実は麻薬王だと知らされ、現在の安定した生活を守るために、自らも悪の組織に身を染めていくというパートは、コントラストの強烈な映像で描くという凝った映像で撮っています。

映画を観る者に、これらの出来事があたかも目の前で現実に起こっているかのような感覚を与えるため、撮影はオール・ロケで行なったそうで、ソダーバーグ監督自身も撮影を行ない、特にメキシコのパートでは、手持ちカメラを縦横に駆使して、ドキュメンタリー・タッチのような生々しさを見事に表現していたと思います。

麻薬を売って儲ける者、それを取り締まる者、そして、それを買う者、使用する者と、それぞれの各々の物語が、どれをとっても立派な一つの社会派ドラマを作れるだけの内容を持っていながら、ソダーバーグ監督は、敢えて、麻薬に侵された社会の断片として描く事として抑制し、登場人物たちは、わずかにすれ違うだけという演出を行ない、本来の群像劇の持つダイナミックでドラマティックな仕掛けを封印し、描写もセンティメンタル的な情緒に陥る事もなく、あくまで、淡々と語り掛けながら、リアルな生態を活写していきます。

そして、登場人物たちは、紛れもなく麻薬というもので繋がっていて、そこから、その断片を繋ぎ合わせていくのは我々、観る者に委ねられており、ソダーバーグ監督が仕掛けたドラマを紡いでいく事に、まるでゲーム感覚のようなワクワクするようなサスペンスフルな面白さを感じると同時に、何かのっぴきならない混沌とした状況に投げこまれたような、苛立ちと、もどかしさを感じさせられ、そして更に、一歩進んでこのリアルで、問題の根の深い社会問題に否応なしに、参加させられてしまうのです。

住んでいる国も地域も環境も異なる人間たちが、一本の線で繋がった時に、初めて明らかになる"麻薬社会の巨大で厳しい全貌"----、観ていて、この"麻薬を巡るシステム"が抱える問題の根深さ、深刻さというものを肌で感じて、身震いするほどの戦慄を覚え、愕然とした気持ちにさせられます。

この麻薬の世界に関わる人間たちは、皆一様に、自分ひとりの力ではもはやどうしようもない、大きな何かに翻弄されていて、そのような状況に立ち至った人間は、どのような価値観と生きる知恵とで、どのような行動をとるのか。

このような、"普遍性というものへのアプローチ"が、この「トラフィック」という映画に、何か深遠で奥行きのあるものをもたらしているような気がします。

人間の尊厳というものが、もろくも破壊される様子をその細部に至るまで、こんなに丹念に粘り強く描き切った映画は今まであまり観た事がありませんし、しかし、だからこそ、この映画の中の厳しい現実から目を背けさせないだけの、圧倒的ともいえる求心力が生まれ得たのだと思います。

いずれにしても、この映画には優れた社会性とエンターテインメント性が見事に同居しており、完璧ともいえるバランスで描かれていると思います。

一般的に、ある何かの問題を多角的に描こうとしても、いずれかの要素に偏ってしまいがちですが、この映画は様々な要素がわれ先にと前へ出てくるのではなく、各々の要素が慎み深く並立し、その綱渡り的なバランス感覚の良さには唸らされます。

ソダーバーグ監督の手持ちカメラを多用し、場所や登場人物のキャラクターによって色調や画質を変化させるという、大胆で斬新な手法によって、この映画の持つ複雑な人間模様を見事に描き出していたと思います。

尚、この映画は2000年の第73回アカデミー賞の最優秀監督賞、最優秀助演男優賞(ベニチオ・デル・トロ)、最優秀脚色賞、最優秀編集賞を受賞し、同年のゴールデン・グローブ賞の最優秀助演男優賞を、同年のニューヨーク映画批評家協会の最優秀作品賞・監督賞・助演男優賞を、同年のLA映画批評家協会の最優秀助演男優賞を、そして、2001年のベルリン国際映画祭の銀熊賞(男優賞)をベニチオ・デル・トロが受賞していますね。
詳細評価
  • 物語
  • 配役
  • 映像
  • 演出
  • 音楽
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