最高の現代人向け自己啓発映画
このレビューにはネタバレが含まれています
2020年9月11日 15時28分
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総合評価:
5.0
これは恐るべき自己啓発映画。
哲学者コジェーヴは「ヘーゲル読解入門」で、戦後のアメリカ人は、世界大戦が終わって、世界がひとつになり(グローバル化し)、与えられた環境下で快楽を求め商品を消費するだけの動物的な人間に成り下がっている、これは人間の消失だ、人間は人間同士の生死をかけた闘争が必要だ、闘争の精神を持ち歴史を作るものこそが人間だ、というような事を書いている。この指摘に僕は現代人として、妙に納得してしまったし、劇中のタイラーの思想と通ずるものがあると思った。
また、ハンナ・アーレントも『人間の条件』の中で、物欲は人間を孤独にするだけである、休日は消費以外には使われず、やがては世界全体を自由に消費するようになり、その「ユートピア」で生まれるのは「幸福」を追求する「大衆文化」だけである、そこでは人間の生に何も意味を与えてくれないだろう、と主張した。やっぱりこれもタイラーっぽい。
たぶん、タイラーはグローバリズムによる物質至上主義の大衆を拒否するために、闘争も歴史も必要とせず快楽に自足する人々(動物的消費者)を拒否するために、休日は消費ではなく自己破壊を!ガーデニングなんてタイタニックと共に海に沈め!完璧を目指すのはよせ!痛みを受け入れるんだ!と叫び続けたのだろう。我々も実は心では消費に重きをおくな、と思っているはずだ。でも自分が何をしたいのか分からないから取り敢えず流れに身を任せて流行りの服を買ったりレビューの高評価なカフェでお茶する。それじゃダメだと、破滅的に生きようとしたナレーター(主人公)の葛藤は、胸に迫るものがあったし、マーラと手を繋いで死にゆく様はなんとも言えず美しかった。
長々と拙文晒したが、とにかく、
最高の現代人向け自己啓発映画だと思います。
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