映画ポップコーンの評価
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"反権力の颯爽とした三人の浪人を描きながら、他方で生きるために権力に使われる冴えない浪人をニヒリズムの視点で描いた「三匹の侍」" 時代劇のヒーローに浪人がいる。権力体制からはじき出され、自分の腕っぷしだけで生きなければならない。 野良犬、虫ケラと蔑まれても、武士の誇りは捨てない。 一匹狼だから権力への遠慮はない。 むしろ、権力悪に対しては、人一倍強い怒りを持っている。 時代劇では、この浪人は、しばしば、宮仕えの武士以上の爽快なヒーローになるものだ。 戦前の傑作、山上伊太郎脚本、マキノ正博監督の「浪人街」三部作、戦後の黒澤明監督の映画史に残る大傑作「七人の侍」、そして「用心棒」「椿三十郎」。 時代劇は、浪人を常に魅力的に描き続けてきたと思う。 食うや食わずの痩せ浪人が、思いもよらない剣さばきを見せる。薄汚れた野良犬が、牙をむき出し、強大な権力に闘いを挑んでゆく。 「他人のことなんか知っちゃいない」と、うそぶいていた素浪人が、何を血迷ったか、飢えた農民のために、剣を抜く。 1962年からフジテレビで放映が始まった五社英雄演出の「三匹の侍」は、この浪人たちの魅力を思う存分見せつけた人気シリーズだった。六〇年安保闘争の後の「敗北の季節」に、裏街道を行かざるを得なかった誇り高き男たちのゲリラ的な戦いは、当時の時代の気分といったものによく合ったのかもしれません。 丹波哲郎の柴左近は、身を崩しながらも、まっとうな武士以上に誇り高く、義侠心に富んでいる。 長門勇の桜京十郎は、ユーモラスな明るい性格ながら、槍にかけては天下無双。 平幹二朗の桔梗鋭之助は、机龍之助や眠狂四郎と同じニヒリズムを湛えながらも、最後には、他の二人に引きずられるようにして、反権力の剣を抜く。 三人三様のキャラクターが、この物語を豊かに盛り上げる。無論、この三人が、黒澤明監督の「用心棒」の三船敏郎のイメージを踏襲していることは、言うまでもないだろう。 三船敏郎の魅力を、三分したと言えばいいだろうか。 今更ながら「用心棒」の先駆性に舌を巻いてしまうが、「三匹の侍」は、その面白さを受けて、浪人たちの闘いをさらに縦横無尽に広げていると思う。 三人の薄汚れ具合は、三船敏郎以上と言ってもいいだろう。 1964年に松竹で作られた「三匹の侍」は、テレビでの好評を受けての映画化作品だ。 監督は、テレビ版で演出の冴えを見せた五社英雄。 これが映画初監督になる。製作は、丹波哲郎のさむらいプロ。白黒映画だ。 薄汚れた浪人の物語にカラーは似合わない。吹きさらしの街道を往く素浪人をとらえるには、白黒の映像しかない。 凶作と重税で追いつめられ、ついに悪代官(石黒達也)に対して立ち上がった農民たち(藤原鎌足ら)のために、三人の浪人が義の闘いを敢行する物語だ。 浪人もの映画の定型どおりといえばそれまでだが、定型ならではのカタルシスがあり、上質のエンターテインメント作品に仕上がっていると思う。 農民が悪代官と真正面からぶつかって勝てるわけがない。そこで農民たちは、代官の娘(桑野みゆき)を人質に取って、村はずれの水車小屋にたてこもる。 そこに、丹波哲郎の紫左近が通りかかり、農民たちの闘いに関わらざるを得なくなる。 浪人が弱い農民たちに助太刀する。これもまた、「七人の侍」を踏まえていることは言うまでもない。 しかも、農民の先頭に立つのが、黒澤映画の名脇役、藤原鎌足とくれば、この映画が黒澤明監督へのオマージュになっていることは明らかだ。 水車小屋で、農民たちが自分たちも腹を空かせているのに、流れ者の島左近に、粟粥を振るまうところがホロリとさせる。 ここも「七人の侍」を思い出させる。この一宿一飯の恩義から、丹波哲郎の島左近は、彼らのために闘う決意をする。 めしという、生きる基本が闘いのモチーフになっているのが泣かせる。 三人の中では、長門勇の桜京十郎が面白い。彼だけは武士ではない。農民の出身だ。 「七人の侍」における三船敏郎の菊千代と同じ設定だ。 自分も水呑み百姓の子供だった。だから、農民たちの苦しみがわかるのだ。 得意の槍を振り回して、悪代官一派に切り込んでいく。 対する悪代官は狡猾で、三人の浪人を倒すために他の浪人を使う。 この戦法も皮肉が利いている。毒を以て毒を制す。 悪代官に雇われた浪人もまた、やむを得ざる闘いに駆り出されるのだ。 浪人といっても格好よく一匹狼で生き通せるわけではない。やむにやまれず悪代官という権力に尻尾を振る。 この映画の無類の面白さは、一方で、反権力の颯爽とした三人の浪人を描きながら、他方で、生きるために権力に使われる、冴えない浪人を描いているところにあると思う。 三人が代官や藩の侍たち(青木義朗たち)と斬り結ぶ最後の死闘は、浪人者にふさわしく、烈風吹きすさぶ荒れ野で行なわれる。三人をスーパー・ヒーローに仕立てることなく、息も絶え絶え、疲労困憊しての死闘を行なわせる殺陣が、実に迫力があって素晴らしい。 五社英雄監督の演出は、ケレン味たっぷりで、特に、剣を振る時の烈音というべき、豪快に空を斬る音を意識的に多用して、迫力を増していると思う。 この映画、実は、最後がほろ苦い。悪代官に刃向かった農民の代表三人は、殺される。 その無念を晴らすために、三人の浪人が決死の覚悟で敵を斬り倒す。 それなのに、最後の最後で、農民たちは、後に続かない。 そこが「七人の侍」と大きく違っている。 農民という大衆は、ついに腕のたつ浪人という自由人と共闘しないのだ。 権力と闘おうとしない無名の農民たちは、確かに卑屈かもしれない。臆病かもしれない。 しかし、彼らのほうが、浪人たちよりも遥かに、権力の強大さを知っていることも確かだ。 ついに立ち上がらない農民たちに絶望し、三人が砂塵の中を去ってゆくラストがほろ苦い。 「七人の侍」や「用心棒」に似ていながら、時代が後だけに「三匹の侍」のほうが、ニヒリズムはより深くなっていると思う。
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