映画ポップコーンの評価
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主人公のムルソー(マルチェロ・マストロヤンニ)は、平凡な男だ。 それなのに、彼はいつの間にか、彼をめぐる社会からはみ出した"異邦人"になってしまっていることに気づく。 平凡な男が、いつの間にか平凡でない存在になってしまうのはなぜだろうか? 養老院で母が死んだので、彼は町から60キロほど離れた田舎の養老院へ行く。 汚いバスの中で、彼は暑さにぐったりしている。 暑い時に暑いと感じるのは当たり前だ。 そんな風に、彼の気持ちは、常に当たり前に動いて行く。 母の遺骸の傍らで通夜をしながら、彼は煙草を吸う。そして、コーヒーを飲んだ。 そのことが、後で彼が裁判にかけられた時、不利な状況証拠となってしまう。 母の遺骸に涙も流さず、不謹慎にも煙草を吸い、コーヒーを飲んだと受け取られるのだ。 それでは、ムルソーにとって、母の遺骸の前で泣き、煙草もコーヒーも断つことが、彼の本当の気持ちに忠実だったのかといえば、それはもちろん違う。 そんなことは、悲しみのまやかし的表現であり、嘘である。 ムルソーは、自分の気持ちを偽ることができなかったのだ。 暑い葬式の後で、泳ぎに行き、女友達のマリー(アンナ・カリーナ)に会い、フェルナンデルの喜劇映画を観に行った。 それは、果たして、法廷で非難されたように不謹慎な行為なのだろうか? ムルソーは、ごく当たり前に生活する。 それが、世の中を支配しているまやかしの道徳にそぐわなかったのだ。 ムルソーは、"異邦人"のごとく見られ、断罪される。 だが、真に断罪されなければならないのは、彼を有罪とした社会なのだ。 "太陽のせいで"アラブ人を射殺する有名な事件は、原作者アルベール・カミュの"不条理"の哲学を直截に、しかも余すところなく具現化したものと言えるだろう。 ムルソーの人生は、不条理だ。だが、それでは条理とはなにか? ムルソーの生き方を見ていると、不条理に生きる人生こそが、最も平凡な、というよりは人間として当然の人生ではないかとさえ思われる。 それに比べて、条理の側に立ってムルソーを断罪する人たちの道徳や倫理観の、なんと非人間的なことか。 ムルソーの不条理とは、最も人間的に生きることなのであった。 かくて、最も人間的に生きた人間が断罪される不条理こそが問われなければならなくなってくるのだ。
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