観てる側に迷わせる作品
このレビューにはネタバレが含まれています
2020年9月20日 16時36分
役立ち度:1人
総合評価:
4.0
新海誠監督最新作。学生の頃見た「秒速五センチメートル」にハマり、それ以降監督の作品は欠かさずチェックしているが、正直鑑賞前の期待値はかなり低かった。
理由は周りの評判が悪かった事。私より先に映画を見た知人たちは口を揃えて、観た後モヤモヤが残る映画、と評価を下していた。
そんな事前情報をインプットさせられた中観た映画だったが、私個人としては面白い、というより「観てる人が迷う微妙なライン」をうまくついてきた映画と感じた。
若干のネタバレになるが、この映画は一言で言うと「誰か一人の命と引き換えに、世界が救えるなら」というセカイ系に分類される作品だ。そして他の有名なセカイ系の作品(最終兵器彼女,イリヤの夏、UFOの空,etc…)に違わず、この作品も主人公は「世界」よりも「誰か一人の命」を優先して救おうとする。
しかし、これら作品の良し悪しは別として、この「誰か一人の命」を優先する主人公の行動に共感できる人は少ないのではないかと思っている。何十億と人が生きる世界を差し置いて一人の命を救おうとする姿勢は、端から冷静に見れば正気の沙汰ではない。仮に世界よりももっと規模の小さいアジア、日本、もしくは東京のような都市に限定しても、一人を優先することを正しいと感じる人は少ないと思う。
ただ今作における「世界」は「東京のお天気」であった。「誰か一人の命」が犠牲にならなければ、東京がずっと雨続きになる。確かに国家、そして大勢の人々にとって大きな打撃となるが、大災害のように一瞬で大勢の人が亡くなるわけではない。このような状況で、その「誰か一人の命」が自分にとって本当に大切な人(親、恋人、子供など)だった時、素直にその人の命を諦められるだろうか?正直、自分であれば主人公と同じ、つまりその一人の命を優先させてしまうかもしれないと感じた。
鑑賞後、知人が言ったように確かにモヤモヤは残った。でもそれは良いモヤモヤというか、「自分だったら」に迷いが出た、考えさせられたことで生じたモヤモヤだった。
誰が見てもハッピーエンドな作品を求める人には向かないかもしれないが、個人的には良い作品だったと思う。あと小栗旬が自然な演技でよかったなぁ。