赤い天使
昭和14年、中国大陸。従軍看護師の西は、赴任先でいきなり患者に暴行されるという手荒な洗礼を受ける。2カ月後、前線に送られた彼女は、兵士たちが運ばれるそばから手足を切り取られるというこの世の地獄を目の当たりにする。そこでは感情を捨て、機械のようになるしか正気を保つすべがなかった。そんな時、西は患者の中にかつて自分を暴行した男を見つける。葛藤の末、彼女は男を救おうと上官である岡部軍医に相談するが…。
この映画「赤い天使」は、増村保造監督、若尾文子コンビによる第15作目の作品で、敗色濃い中国大陸を舞台に、従軍看護婦とそこで出会った男たちの物語だ。 この映画は「兵隊やくざ」と同じ有馬頼義の原作ですが、あの痛快さや開放感はどこにもなく、暗く重苦しいトーンで貫かれている。 最前線の野戦病院は、傷病兵であふれ、死者も生者も一個のモノと化していく。 負傷した脚をノコギリで切断する音が響く手術の描写をはじめ、実際に従軍経験のある小林節雄の撮影を得た、増村保造監督の過剰なまでのリアリズム演出は、戦争の真実を抉って鬼気迫るほどだ。 両手を失った一等兵(川津祐介)、戦場の狂気の中で正気を保とうとモルヒネを常用する医師(芦田伸介)。 戦争に身体も心も蝕まれた男たちに深い愛を捧げるヒロインを演じた若尾文子が、凄絶なまでに美しい。 増村保造監督の映画のヒロインの多くは、狂気の愛に生きるが、戦場という極限状況に置かれた若尾文子は、おびただしい死と隣り合わせの男たちに愛を与え、一瞬の生を実感させる。 狂気でもエロスでもない、純粋な愛を。
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