映画ポップコーンの評価
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子供を奪われたアパッチ族のインディアンの怨念と怒りに焦点を当て、"アメリカン・ニューシネマ"の先駆けともなった、"極限状況西部劇"の秀作「レッド・ムーン」 この私にとって幻の映画であった、「アラバマ物語」のアラン・J・パクラ製作、ロバート・マリガン監督、グレゴリー・ペック主演による「レッド・ムーン」をようやく、DVDで観る事が出来ました。 この映画が公開された当時の1968年は、ヴェトナム戦争が泥沼化していた時代で、アメリカ軍は守勢に立たされ、ケサン基地が攻撃されたり、テト攻勢が始まったりして、北ヴェトナム軍の隠密作戦に、とことん悩まされていた、そんな時代でした。 ロバート・マリガン監督が、この映画「レッド・ムーン」を撮ったのは、ヴェトナム戦争を意識していたのは、間違いのない事実だと思うし、この映画が、アメリカ人の"異民族への恐怖"を描いているということも断言していいと思います。 私は、ジェロニモの蜂起に騒然とする騎兵隊の駐屯地から始まる「駅馬車」を思い出しました。 この映画以来ではないだろうか。 ジェロニモを象徴として描いた、ジョン・フォード監督のように、ロバート・マリガン監督も、主人公のグレゴリー・ペックを姿のない敵と戦わせているのだ。 彼をつけ狙うインディアンは、ラストまで顔を見せず、実体のない登場人物なのだ。 物語は、この道15年のベテラン・スカウト、サム(グレゴリー・ペック)が、騎兵隊と一緒にアパッチ族の討伐に出発するところから始まります。 彼は、この任務を最後に引退し、ニュー・メキシコの牧場で余生を送るつもりなのです。 討伐隊は、アパッチ族の非戦闘員を保護したが、その中に白人の女サラ(エバ・マリー・セイント)がいた。 彼女は10年前、アパッチ族に捕らえられ、混血の男の子を産んだのだ。 このサラ母子を連れ、駐屯地へ戻る途中、白人の惨殺死体を見つけた。 すると、サラは急に怯え、安全な場所へ連れていって欲しいとサムに哀願する。 サムは、アパッチ族の戦士サルバヘの犯行に違いないと思ったが、彼女がその妻とは知らなかった-------。 そして、荒野の駅で汽車を待つ不安げな母子の姿をみて、サムが同情するシーンは、胸がジーンとするほど印象的だ。 サムは、サラにさりげなく言う。 「よかったら、牧場へ来ないか? 炊事やらなにやら、仕事はある」と。 グレゴリー・ペックならではの誠実さを漂わせる、男の優しい気持ちにホロリとさせられます。 このことにより、サムは、母子と同時にサルバヘの恐怖を背負い込むことになるのだ。 そして、サムはその日から、どこからか自分たちを監視しているサルバヘの目を感じるのだった。 そして、一言も口をきかない男の子は、戸外に出ては、牧場を取り囲む山や森を眺めるのだ。 彼にだけは、父の姿が見えるかのようだった-------。 サルバヘは、サムの隣人の夫婦、使用人、助手のニックを殺し、サムに音もなく忍び寄り、襲い掛かってくるのだ。 このサルバヘをなかなか画面に見せず、"見えざる恐るべき敵"という恐怖の効果をあげ、最後の死闘で、実体を見せるという、ロバート・マリガン監督の簡潔なショットの積み重ねによる、サスペンスを盛り上げる演出手腕が、実に素晴らしく唸ってしまいます。 この主人公のサムが、極限状況の中で闘ったあらゆるヒーローの中で、最も苦しい立場に置かれていたのではないかと思います。 「真昼の決闘」のゲーリー・クーパー、「必殺の一弾」のグレン・フォード、「決断の3時10分」のヴァン・ヘフリン。 三人とも孤独だったが、彼らが選んだ道で、その気になれば逃れることが出来たと思う。 しかし、サムは、たまたま追い込まれた状況下、孤立無援で闘わなければならないのだ。 しかも、相手は白人の論理が通用しないインディアンなのだ。 この「レッド・ムーン」は、子供を奪われたアパッチ族のインディアンの怨念と怒りに焦点を当て、"アメリカン・ニューシネマ"の先駆けともなった、"極限状況西部劇"の秀作だと思う。 そして、この映画は、主人公を演じた、私が最も好きな俳優のグレゴリー・ペックが、じわじわと忍び寄って来る恐怖に、敢然と立ち向かい、強敵をギリギリの闘いの末に倒す男を、静かな中にも、情念のほとばしりを見せながら好演していて、あらためて名優グレゴリー・ペックの演技にしびれてしまいました。
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