華麗なるヒコーキ野郎
1920年代のアメリカを舞台に、飛行機に魅せられた男たちの生きざまを描く。第1次世界大戦で戦闘機のパイロットとして活躍し、その後も曲芸飛行で田舎を飛びまわっていたウォルド・ペッパー。彼はハリウッドにスタントマンとして招かれるが、そこで出会ったのは、元ドイツ空軍の英雄ケスラーだった。「明日に向かって撃て!」「スティング」に続き、ジョージ・ロイ・ヒル監督がロバート・レッドフォードと組んだ痛快作。
この映画「華麗なるヒコーキ野郎」は、ジョージ・ロイ・ヒル監督、ウィリアム・ゴールドマン脚本、ロバート・レッドフォード主演という「明日に向って撃て!」の黄金コンビによる、ノスタルジーに溢れた、ごきげんな作品ですね。 まず冒頭のユニバーサルのマークが、1970年代のものではなく、飛行機が地球を一周する、この映画の舞台背景となる1920年代当時のものなのが、実に凝っていると思います。 ピアノのソロが被さるオープニングは、第一次世界大戦の空軍のエースたちのモノクロ写真で、モロにジョージ・ロイ・ヒル監督の趣味の世界が出ていると思います。 もともと、朝鮮戦争で空軍のパイロットを務めていたというジョージ・ロイ・ヒル監督は、大の飛行機マニアで、多分、「スティング」でアカデミー作品賞と監督賞を獲得した後、次は何を撮りたいかと製作会社に聞かれて、すぐにこの映画の企画を提出したのかも知れません。 製作会社としても、当時、人気絶頂のロバート・レッドフォードが出演してくれれば、「スティング」の顔合わせの復活だし、即座にGOサインを出したに違いありません。 そして、脚本は「明日に向って撃て!」で、やはりロイ・ヒル&レッドフォードと組んだウィリアム・ゴールドマン。 当時のインタビューで、ゴールドマンは複葉機なんて好きでもなんでもなかったが、執拗にロイ・ヒルにくどかれて、執筆を行なったと言っています。 そして、レッドフォードも同じような趣旨の発言をしており、この作品でロイ・ヒルは、原案、製作、監督の三役を務め、何と彼の愛機二機を出演させているほどなのだ。 この映画の物語は、1926年のネブラスカで幕を開ける。 小川で釣りをしている少年の耳に飛び込んできたのは、飛行機のプロペラ音。 近くの草原へと走ると、そこに「グレート・ウォルド・ペッパー」と、描かれた複葉機が飛来する。 この機から降りてきたペッパーことレッドフォードは、ゴーグルをはずすと、満面の笑顔で、集まった人々を遊覧飛行へと案内する。 ここでは1926年という年の設定が、絶妙なのだと思います。 それは、かのリンドバーグが、ニューヨークとパリの間の単独無着陸大西洋横断をやってのけたのは1927年、この同じ年にアメリカでの"連邦航空法"も整備され、パイロットの資格や飛行機の対空性の基準が、厳しく審査されるようになったのだ。 つまり、この1926年というのは、飛行機が輸送手段として考えられる以前の、大空をただ単に駆け巡ることの出来た最後の年でもあるのだ。 映画の中で"連邦航空法"の施行を聞いたレッドフォードが、「俺は郵便配達じゃない。飛行機乗りなんだ」と呟くシーンがあり、泣かせてくれます。 こうして、映画の前半は、レッドフォード扮する旅回りのパイロットたちの大活躍を描いていくんですね。 走る車から飛行機へと梯子を伝ってよじ登る、飛んでいる飛行機の翼上を歩く、はては、飛行機から飛行機へと空中で乗り移るなどの荒業が続出し、飛行機マニアのロイ・ヒル監督は、ウィリアム・A・ウェルマン監督の第一回アカデミー作品賞受賞の「つばさ」以来、特撮を一切使わない"飛行機映画"が作りたかったらしく、どの場面も本当に飛行機を飛ばしているのだ。 翼から翼への空中での乗り移りは、さすがにレッドフォードがやっているとは思えないが、それでも直前の地上二、三千フィート地点で翼の上に立っているレッドフォードのショットがあるのは、驚きを通り越して、それだけで感動的でもある。 雲がないと高さが出ないため、雲待ちをしながらレッドフォードを翼の上に立たせたという逸話もあり、ロイ・ヒル監督の、このこだわり恐るべしですね。 そして、CG万能の時代を迎えた今、この映画は"永遠不滅の輝き"を放っていると思います。 撮影で死者が出なかったのが不思議なくらいだが、映画の後半でレッドフォードのペッパー機が墜落する場面は、飛行機スタントの神様フランク・トールマンが起こした本当の事故だということで、実際にトールマンは骨折しているらしい。 この危険な空中サーカスのやりすぎで、飛行機免許を取り上げられたペッパーが、偽名を使ってハリウッドに乗り込み、第一次世界大戦の空軍のエース(ボー・スヴェンソン)とともに、戦争映画の空中スタントを務めるラストは、まさに感動ものだ。 しかも、ペッパーの機は、どこまでも高く飛んで、雲の間に飛び込んで消えてしまうのだ。 ロイ・ヒル監督は、後にジョン・アーヴィングの「ガープの世界」を映画化した時、レスリング・マニアのガープの設定を、赤ちゃんの頃、母親に空へと放り上げられたことが忘れられない青年へと変更した、ロイ・ヒル監督らしい決着の付け方でもあるような気がします。 現実よりも、多分、空を飛んでいることの方が好きなロイ・ヒル監督。 この「華麗なるヒコーキ野郎」という映画は恐らく、ジョージ・ロイ・ヒル監督にこそふさわしい呼び名だと思います。
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