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「人間の孤独な心を優しく、温かいまなざしで見つめる人間凝視の秀作」 カイロの紫のバラ dreamerさんの映画レビュー

カイロの紫のバラ THE PURPLE ROSE OF CAIRO

人間の孤独な心を優しく、温かいまなざしで見つめる人間凝視の秀作

2024年1月30日 16時39分 役立ち度:0人
総合評価: 5.0
この映画「カイロの紫のバラ」は、人間の孤独な心を優しく、温かいまなざしで見つめる人間凝視の秀作だと思います。

この映画は、ウッディ・アレン監督自身が、自作の中で好きな6本の内の1本として挙げていて、1985年度のゴールデングローブ賞の最優秀脚本賞、ニューヨーク映画批評家協会の最優秀脚本賞、カンヌ国際映画祭の国際映画批評家連盟賞、英国アカデミー賞の最優秀作品賞、最優秀オリジナル脚本賞、フランスのセザール賞の最優秀外国映画賞を受賞している秀作ですね。

映画の舞台は、1930年台の経済不況下のアメリカ・ニュージャージー。
失業中の夫に代わって、ウエートレスをして働くセシリア(ミア・ファロー)にとって唯一の心の支えとなり、淋しい心を癒してくれるのは映画館へ行って、今上映されている「カイロの紫のバラ」という映画を何回も繰り返し観る事でした。

フレッド・アステアの歌う永遠の名曲"ヘヴン"が流れるなか、セシリアが劇場の前でうっとりとした顔でポスターを見つめるという印象的なシーンから映画は始まります。

名画はその冒頭のシーンとラストシーンがいつも素晴らしく、映画ファンの心を虜にし、映画という虚構の世界でひと時の夢を与えてくれます。

1930年台といえば、ハリウッドがまさに"夢の工場"とも言われたミュージカル映画の黄金時代でしたが、当時のアメリカの人々は、大恐慌時代を経て、未だに苦しい生活を強いられており、そういう厳しい現実の生活から逃避出来る唯一の場所は、娯楽としての映画でした。

スティーヴン・スピルバーク監督が、「映画を観るという行為は現実の生活から離れ、ひと時の夢に酔う究極の逃避である」と語った事がありますが、この映画を観るという行為は、いつの時代になっても、究極の逃避であり、特に我々映画ファンと言うのは、元々淋しがり屋で孤独ですので、常に映画という虚構の世界に我が身を置いて、ヒーロー、ヒロインと同じ気持ちになって、厳しい現実の自分から逃避しているのかもしれません。

セシリアは、今日も現実から逃れるようにして、「カイロの紫のバラ」という映画を観ていましたが、これが5回目である事に気付いた映画のヒーロー、トム・バクスター(ジェフ・ダニエルズ)は、劇の途中でスクリーンの中から飛び出して来て、映画の進行は止まり大騒ぎになりますが、そんな事はお構いなしに、映画のヒーロー、トムは何とセシリアに恋をしてしまうという奇想天外なお伽噺の世界が描かれていきます。

困惑した映画会社は、トムを演じるスターのギル・シェパード(ジェフ・ダニエルズ・二役)を動員してトムを映画の中へ連れ戻そうとしますが、そのギルもセシリアを愛してしまい、彼女と駆け落ちしようと言いだします。
全てを捨てて約束の場所で待つセシリア。だがヒーローはその場所へやって来ません。

ヒーローが心変わりしたのか、それとも単なる口先だけの約束だったのか、それとも周囲の陰謀で来る事が出来なかったのか--------。

再びいつもの孤独な生活へと戻っていくセシリア。紫色の夢が破れ、現実の厳しい生活が待っています。
こんなセシリアに対してウッディ・アレン監督は、素敵なラストシーンを用意しています。

哀れなセシリアをほんのひと時、映画の夢の世界に酔わせ微笑みを与えます。
まさしくウッディ・アレン流の優しいダンディズムが遺憾なく発揮されていますね。

傷心のセシリアが観ている映画は、ミュージカル映画の最高傑作と言われる「トップ・ハット」で、彼女は哀しみに沈みながら、映画の中で繰り広げられるフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの華麗な歌とダンスに魅せられて、再び幸福で豊かな気持ちになっていきます。

まさしくこの映画は、主人公のセシリアが映画の魔法の力で、再び生きる希望、勇気を見い出していく、"彼女の人生の再生のドラマ"であると思います。

そして、セシリアを演じるミア・ファローの思わず抱きしめたくなるような、儚い乙女心は実に切なく、人間の孤独感を見事に表現していたと思います。

また、彼女の孤独な心を優しく温かいまなざしで見つめるウッディ・アレン監督の人間凝視の奥深い演出は素晴らしく、彼の最高傑作だと思います。

我々映画ファンは、映画という虚構の世界に憧れ、夢を馳せながら、映画によって自分自身と現実を認識し、映画という魔法の力で明日への生きる活力、希望、勇気を見い出していけるのだと思います。

この映画を深い感動と静かな余韻の中で観終えて思う事は、ウッディ・アレン監督が、この映画で描いた、"悲観と楽観の間をたゆたう絶妙なバランス"は、我々映画ファンに"虚構の世界を楽しく遊ぶ、人生の豊かさを感じさせてくれ、そして、その豊かさの中にこそ本当の人生というものがある"のだという事を教えてくれているように思います。
詳細評価
  • 物語
  • 配役
  • 映像
  • 演出
  • 音楽
イメージワード
  • ・切ない
  • ・ファンタジー
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