映画ポップコーンの評価
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イタリアの中部地方の山間には、不可思議な町、あるいは村が存在する。それはまさに「存在」そのものだ。 アンドレイ・タルコフスキー監督の「ノスタルジー」が描くのは、幻想の「水」を辿る旅であり、タルコフスキー自身の、故郷ロシアへの郷愁が、主人公アンドレイ・ゴルチャコフの心象風景として表われていると思います。 ゴルチャコフは呟く。「この風景は、どこかモスクワに似ている」と。霧の漂う丘陵地帯。白い馬。佇む女たち。 そこには、動くことを止めた時が、うずくまっている。 かと思うと、深い谷底から生えてきた角のような台地に、ひしめきあって建つ、赤っぽい石造りの建物。 周囲を濃い緑の山々に囲まれた一握りの台地は、霧の切れる一瞬、幻想ではなかったかと、私は目を疑ってしまう。 しかし、確かに実在する土地なのだ。「ノスタルジア」の旅は、こうして、幻想の中でスタートする--------。 イタリアで、ロシアの詩人ゴルチャコフは、恋人のエウジェニアとともに温泉地を訪れ、世紀末の世を救おうと、ろうそくを灯して水を渡ることに執着する老人ドメニコと出会う。 エウジェニアは、ロシアへのノスタルジアにとり憑かれたゴルチャコフの、果てしない思案に耐え切れず、別の恋人のもとへ去ってしまう。 そして、ドメニコは焼身自殺し、残されたゴルチャコフは、ドメニコの遺志を継いで、ひとりで温泉を渡り切った時、力尽きてしまうのだった--------。 タルコフスキーにとって「水」は、地上で最も美しく、謎めいた物質なのだろう。だから、ドメニコは俗世の人間に狂人扱いされながらも、水=温泉を渡ろうとする。 俗世間の人々から、このように狂人扱いされているドメニコは、世紀末の世界を救おうと、ろうそくを灯して水を渡ろうとする。 「水」は、禊に使われるように、ここでもある種の力を持っている。 そして、「水」はあの世とこの世の間の川。ドメニコは、その川の渡し守なのだ。 また、この「水」は、母胎の中の羊水でもあり、世紀末を世界の始まりに戻そうとすることは、胎内への回帰等、胎を持たない男の発想であり、そんなことでもたつくゴルチャコフに嫌気がさして去ってゆくエウジェニアは、中性的な魅力にあふれている。 この映画の中で、特に印象的だった場面は、水溜まりの向こうに横たわるゴルチャコフ。雨が降っている。屋根のない柱廊。 廃墟と化し、屋内であり、屋外でもある奇妙な建物、映画全体を支配する幻を、この建物に感じてしまいました。
この映画の監督、アンドレイ・タルコフスキーが当時のソビエト連邦から亡命する前後に作られた作品がこの「ノスタルジア」です。彼の代表作の一つでもあり、制作スタッフは主にイタリア人。ロケもイタリア、トスカーナが舞台です。 前作「ストーカー」や次作「サクリファイス」同様難解なセリフが散りばめてあります。タルコフスキーが撮ると陽気なイタリアの空気も大分重く感じてしまいます。ですがあまり気になさらずに。それにストーリーやセリフもそんなに真剣に追わなくて良いと思います。ただただ美しい映像と独特の長回し、「水」と「火」へのこだわり。この手の映画にハマったら、大分色んな作品が楽しめると思います。 ちなみにこの作品は第38回カンヌ映画祭で創造映画大賞、国際映画批評家賞、エキュメニック賞を受賞しました。決して万人受けする映画ではありません。ですが疲れた時にこそオススメしたいです。何も考えず、ただひたすら圧倒的な美しい映像に癒されて下さい。
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