ワン・フロム・ザ・ハート
同棲していた彼の元を去り、独立記念日で賑わうラスベガスの町へ出て来たフラニー。出会ったのはピアノ弾きの男……。オール・セットで作り上げた人工のラスベガスも見ものの、コッポラ監督作。
フランシス・フォード・コッポラ監督の「ワン・フロム・ザ・ハート」は、第二次世界大戦前後のアメリカ映画の楽しさを、1980年代前半頃の最先端の映像、音響技術を駆使して再現しようとした映画だ。 舞台はラスベガス。愛し合うカップルが、ふとした感情のすれ違いで、喧嘩別れをしてしまう。 そして、それぞれ別の恋人を見つけようとするのだが、本当の愛を確認して、また元のサヤへ納まっていくのだ。 この単純な物語に、全編に流れる、トム・ウエイツの音楽をたっぷり重ねて謳い上げ、ラスベガスの街もオールセット。 まさにあのMGMミュージカルのムードの再現。 画面も通常のスクリーンサイズではなくて、1940年代のスタンダードサイズで撮影しているのだ。 さらに、色彩までもが当時のテクニカラー発色に似せてあるのだ。 あの塗り込んだようなテクニカラー独特のタッチで、心理を語ろうとしているのだ。 しかも、何より興味深いのは、このセット、この色彩、そして華麗な画面構成が、全てVTRを利用した最新の映像技術で処理されているという事。 例えば、彼の説得を聞かないで、彼女は新しい恋人と飛行機に乗ってしまいます。 絶望のまま駐車場に引き返す、彼の後ろは空港ビル。 突然、そのビルの屋上すれすれに、彼女が乗ったジャンボ機が、ドワッと飛び立って行く。 遠近感を無視した映像効果が、ドラマティックな興奮を盛り上げるのだ。 これはVTRによる合成の効果なのだが、従来のマット合成やスクリーンプロセスでは得られなかった、美しい仕上がりと効果を発揮していると思う。 VTRからフィルムに戻す時に生じる、色の冷たい沈みが若干、感じられるのだが、それにしても見事な技術だと思う。 映画とは、こんなにも面白いものなんだよ。 こんなにも楽しいものなんだよ。 こんなストレートな映画の魅力を、最先端の技術の粋をこらして、フランシス・フォード・コッポラ監督は、語っているのだ。 ナスターシャ・キンスキーの神秘的な美しささえ、その狙いの一つなのだと思う。 この映像技術に目が届かないと、古いと思えるかも知れない。 重いと言う人もいるだろう。 しかし、このヘビーな画像こそ、コッポラ映像の思想であり、魔力なのだ。 まさに、映像と音響による魔性のトリップ感覚なのだ。
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