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「老残のギャングの失われた夢、過去へのノスタルジーを描いた名作 」 アトランティック・シティ dreamerさんの映画レビュー

アトランティック・シティ ATLANTIC CITY, U.S.A.

老残のギャングの失われた夢、過去へのノスタルジーを描いた名作

2024年2月11日 17時46分 役立ち度:0人
総合評価: 5.0
この映画「アトランティック・シティ」はヌーヴェル・ヴァーグの旗手ルイ・マル監督が老残のギャングの失われた夢、過去へのノスタルジーを描いた名作だ。

近代化の波が押し寄せ、古き良き時代は過去のものとなりつつあるカジノの街、アトランティック・シティ。
この映画「アトランティック・シティ」は、ここに生きる老ギャングの飄々とした姿を描いた、フランスのヌーヴェル・ヴァーグの旗手で、「死刑台のエレベーター」「鬼火」のルイ・マル監督がアメリカへ渡って、「プリティ・ベビー」の次に撮った作品で、彼のアメリカ時代の最高傑作と評価の高い作品です。

この映画の舞台となっているのは、賭博が合法化されて以来、急速に変貌しつつあるギャンブル都市アトランティック・シティ。一攫千金を夢見てこの街にやって来る者が絶えません。

ある麻薬事件を契機にして、老残のギャング、ロウ(バート・ランカスター)と、プロのディーラーを目指すサリー(スーザン・サランドン)とが、このドラマの核となります。

まず、映画のファースト・シーンは、同じビルの隣の部屋から、窓越しに台所で裸になって身体を洗っているサリーを覗いているロウの姿を捉えます。

冒頭のこのショットで、我々観る者は、あらかじめ古き良き時代の伝説の中に、自分の身を浸して生きているかのように見えるロウの、胡散臭さを否応なく了解させられるのです。
べっとりとまとわりつくような、その胡散臭さを受け入れられるかどうかが、この映画に魅了されるかどうかの分岐点になるような気がします。

あっさりと殺されてしまうサリーの別れた夫デイブや、ロウの愛人とおぼしきグレースなどのユニークなキャラクターを絡ませながらも、この映画の真の主人公は、ゆっくりと退廃していく"アトランティック・シティ"そのものなのだと思います。

ドラマとしては、ある種、汗臭いことこの上ないのに、画面は淡いトーンの色彩で統一されていて、何度も観返してみると、ルイ・マル監督はどの登場人物にも、常に一定の距離を置いて描き、ひとつの街全体が静かに崩れていく様子を見つめたかったのかも知れません。

幼児性と、それゆえの小狡さを持ったロウのキャラクターを、名優のバート・ランカスターは余裕たっぷりに、若い女とのささやかな触れ合いをユーモラスに、かつ哀歓を漂わせながら演じて見せ、彼のいつもながらの、渋くて味わい深い、演技のうまさに圧倒されてしまいます。

彼の夢は、あまりにもナイーヴなのですが、それはもはやこの世界の中では、"失われた夢"、"過去へのノスタルジー"にしかすぎないのです。

そして、ルイ・マル監督の演出のうまさに驚いたのは、この映画のラストで、解体されつつある老朽化したビルに、カメラがさりげなくパンするあたりの、どこまでも計算の行き届いた、鮮烈で象徴的なエンディングです。

なお、この映画は1980年度の第35回ヴェネチア国際映画祭で最優秀作品賞に相当する金獅子賞を、1981年度のNY映画批評家協会賞の最優秀主演男優賞・脚本賞を、同年の全米映画批評家協会賞の最優秀作品賞・監督賞・主演男優賞・脚本賞を、LA映画批評家協会賞の最優秀作品賞・主演男優賞・脚本賞を、英国アカデミー賞の最優秀監督賞・主演男優賞を受賞しています。
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