人間と象との心の触れ合いを描いて爽やかな感動を呼ぶ、人間ドラマの秀作
2024年1月29日 11時09分
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総合評価:
4.0
この映画「脱走山脈」は、私の大好きな映画の1本で、第二次世界大戦の最中に、1頭の象を連れてアルプス山脈を越えて行く、一兵士のスリル満点の冒険を描いた作品です。
第二次世界大戦中に、実際にドイツ軍の捕虜生活を送ったイギリス兵トム・ライトのオリジナル・ストーリーを、トムとこの映画の製作者で監督でもあるマイケル・ウィナーが共同で企画して、映画化したと言われています。
そして、マイケル・ウィナー監督がハリウッドに行く前の、イギリス時代に連発した数々の秀作のうちの1本なのです。
第二次世界大戦末期、戦争嫌いのブルックス(オリバー・リード)と、戦争が面白くてたまらず捕虜になっても脱走のチャンスを狙うバッキー(マイケル・J・ポラード)という、二人の連合軍兵士が、ミュンヘン郊外の捕虜収容所に入れられていました。
ブルックスは、収容所内の動物園でルーシーという名の象の飼育係をやらされていましたが、飼育をしていくうちに、次第にルーシーに愛情を感じ始めていました。
やがて、連合軍の爆撃が始まり、バッキーはその混乱に乗じて、念願の脱走を図ろうとしますが、一方のブルックスはルーシーの安否が心配で脱走どころではないという心境でした。
そして、園長の命令で象のルーシーをオーストリアへ運ぶ事になり、ブルックスの130キロに及ぶ、アルプスを越えてのスリルに満ちた、ルーシーを連れての脱走劇が始まるのです。
この映画の主演は「明日に賭ける」でもマイケル・ウィナー監督とコンビを組んだ「三銃士」のオリバー・リードで、共演は「俺たちに明日はない」で見せたオトボケ演技が印象に残っているクセ者俳優のマイケル・J・ポラード。
この二人の対照的な個性のぶつかり合いが、この映画の魅力の大きな要素になっていると思います。
また、この映画の音楽を担当したのが、私の一番好きな映画音楽家のフランシス・レイで、この映画でもダイナミックな中にも、彼独特の哀愁を帯びた繊細なタッチのリリカルなメロディーを提供していて、彼の音楽を聴くだけでも、この映画を観る価値があるくらいです。
戦場にいるのは、ただ運命に強制されているだけで、現時点での本当の生き甲斐は、1頭のインド象のルーシーを救い出す事だけにある、という心優しい男ブルックス。
彼と対照的なのが、バッキー。彼が戦うのは国とか家族とかのためではなく、戦う事そのものに生き甲斐を感じるという男。
マイケル・ウィナー監督の、英雄ではなく、特異な状況に置かれた人間を描くという意図が、この二人の人間像によく表れていると思います。