鬼火
アルコール中毒によって入院し、その間に死につりつかれた男・アラン。命を絶つ日を7月23日と決めた彼は、旧友たちのもとを訪ねて歩く。平穏な、あるいは退廃的な生活を送る彼らと出会い、会話を重ねても、アランの心には何も変化が起こらなかった。
このフランス映画「鬼火」は、ルイ・マル監督、モーリス・ロネ主演にて、自殺を決意した男の、死に至るまでの二日間の行動を描いた、厭世感あふれる秀作だ。 アル中患者として療養所で暮らすアラン・ルロワ(モーリス・ロネ)は、かつて社交界の花形だったが、今は死にとり憑かれている。 その彼が、人生の最期を締めくくるためにパリの旧友を訪れる-------。 ひと言で言って、フランス映画というのは、非常に感覚的だ。 まず、感覚に訴えてくる。 自殺しようとする男の感覚が、思考よりも何よりも、最初に観る側に伝わってくるのだ。 死への傾斜、物憂い、痺れるような感覚と、それを通して見た世界の相、その頼りなさ、確かにつかめるもののない、何とも言えない不安-----それらが、頭で考えるより先に、いち早くこちらのものとなってくる。 いつの間にか、観客(私)は、死を前にした男の主体に加わって、その半分麻痺した感覚において世界を見、それと親しく接している。 この目で見る世界は、何かよそよそしく、物憂く、そして非情だ。 多くの人々と接しながら、却って孤独の淵へと沈み込んでいく気分が、世界との別れを、抵抗なく感じさせてしまう。 まさにこれは、別れの物語だ。 死に傾斜していく男が、そのどんよりとした意識の中で、この世界とそこに住む人々に別れを告げていく。 人びとは、それぞれに生きている。 しかし、男の目に、彼らの生は耐え難い不純さとして映るのだ。 女たちは彼に優しい。しかし、男は彼女らを恐れる。 女たちもまた、彼のもとを去って行ってしまう。 「あなたには野生はない。あなたにあるのは心よ」。 ソランジュの答えが、彼のもとを去ったすべての女たちの彼への答えであり、また、よそよそしかったこの世界のそれでもあった。 この時、彼はまさに別れを告げるのだ。最も"生きる"ために--------。
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