ヒンデンブルグ
この映画の題名にもなっている「ヒンデンブルグ」とは、飛行船の名前で、もともとはドイツ・ワイマール共和国の大統領の名前で、彼の名にちなんで命名されたものだ。 このヒンデンブルグ号は、第二次世界大戦の直前にナチス・ドイツがその国力を全世界に対して誇示するために作った飛行船なのだが、1937年5月、ドイツのフランクフルトからアメリカのニュージャージー州レークハーストに着陸寸前のヒンデンブルグ号が大爆発し、炎上した事件は、謎の大惨事として、全く原因がわからないまま今日に至っている。 そして、この歴史的な大事件をマイケル・ムーニーが一冊の本にまとめ、「ウエスト・サイド物語」や「サウンド・オブ・ミュージック」等のミュージカル映画の傑作や、その一方で「私は死にたくない」や「砲艦サンパブロ」等の社会派ドラマも数多く撮っているロバート・ワイズ監督が映画化したのが、この映画「ヒンデンブルグ」だ。 この大事故は多くの謎に包まれていただけに、空想をはたらかせる余地があるわけで、この映画では反ナチの若い乗務員の犯行という仮説を立てて、物語を構築している。 主演は「パットン大戦車軍団」のジョージ・C・スコット、「奇跡の人」のアン・バンクロフトで、当局の命令で警戒に当たるため、この飛行船に乗り込んだジョージ・C・スコットと、カメラマンというふれこみのゲシュタポのロイ・シネスの対立を軸として、盛り上げられていくサスペンスを、ヒンデンブルグ号の壮大な飛行場面に融合させたロバート・ワイズ監督の演出のうまさは、さすがだ。 ミニチュアと船体の部分的なセットと船内のセットをうまく織り交ぜて、巨大さをよく表現しているのも成功している。 銀灰色に輝く巨体が、ゆうゆうと雲間に消えていく光景は、SF的にロマンさえ感じさせてくれる。 そして、いよいよ事故が起きる寸前から、画面がそれまでのカラーから、さあっと白黒の画面になって、物凄い臨場感が生まれてくるのだ。 もともと、この爆発の模様をしっかりと撮った当時のニュース・フィルムが現存していて、それを実際に入れて再編集したわけだが、ここにロバート・ワイズ監督の大きな意図があったように思う。 あの白黒のニュース・フィルムを入れることによって、時間と空間を見事に合致させ、一つの核を作って、観ている者を、あの大爆発の現場に誘おうと、ロバート・ワイズ監督はしたのだと思う。 そして、彼の計算は見事に当たって、観ている者は目もくらむスペクタクルを目のあたりにすることが出来たのだ。 やはり、ロバート・ワイズ監督は、オーソン・ウェルズ監督の「市民ケーン」の編集を手がけた人だけに、編集のテクニックは抜群なわけだ。 そして、映画全体を通してロバート・ワイズ監督が言いたかった事は、科学の急速な進歩で数多くのメカが作り出され、世界は繁栄しているけれど、その繁栄をまた破壊するのも全て人間の行なう事。 その"人間の業の哀しさ"が、ラストの大爆発のシーンに的確に表現されていたのではないかと思うのです。
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