こちらを先に観たかった
このレビューにはネタバレが含まれています
2025年7月20日 00時35分
役立ち度:0人
総合評価:
4.0
ピーター・B・カインの小説“Three Godfathers”の映画化作品というとジョン・フォード監督の「三人の名付親」が今では最も知られているバージョンで、私の初見はビデオソフトでしたが、テレビでもNHK-BSなどで繰り返し放送されているので、この「三人の名付親」がすっかりイメージとして定着してしまった後に同じ原作でそれ以前に作られたものを観ると、やはり新鮮味が薄れてしまうことは否めませんでした。
それでも、本作の時点ですでに三度目の映画化であるため、ストーリーがしっかり構築されていて破綻がないですし、これがウィリアム・ワイラー監督の初のトーキー作品であるということですが、トーキー初期の作品にしばしばみられる間延びした箇所もなく、68分という短い尺での簡潔な語り口が素晴らしい。
キリストの誕生を祝福するためにやってきた東方の三賢人になぞらえて、銀行強盗をした三人組(本作ではもともと4人で逃走の際に撃ち殺されて3人になる。それも牧師が突如銃を取り出して発砲する!という奇抜さが目を惹きます)が砂漠の真ん中に取り残された幌馬車の中で1人の女性が産み落とした赤ん坊を町へ届けるために自らの命を犠牲にしていくというクリスマス精神と親和性の高い物語ではあるものの、キリスト教圏以外の人たちにも大いに共感を持てる内容になっています。
本作では、「三人の名付親」のような3人を追う保安官の描写がなく、専ら彼ら3人にスポットを当てて描いています。
爆薬が使われて完全に破壊された水源を見て愕然となり、残り少ない飲み水を大切にしながら赤ん坊を守り抜いて町へ戻ろうとする三人。
途中、一人は怪我で動けなくなり自決。次の一人は飲み水が足りないことを悟ると残りの一人に赤ん坊を託して砂漠へと戻っていく。
その最後の一人であるボブを演じるのが、後年、強面で頑固な親父を演ると見事にハマったチャールズ・ビックフォードで、その存在感が光ります。
終盤の展開は「三人の名付親」とは全く異なっていて、ボブは自らヒ素に汚染された毒入りの泉の水を飲み、町まで行く時間稼ぎをするという自己犠牲の鑑のような働きをみせますが、銀行強盗を行った際に、彼らがこの赤ん坊の父親の命を奪っていたという事実があるため、罪を犯した報いとも取れる厳しい現実を突きつける形で終わるという結末であっても、情に流されることなくきちんと筋を通しているので、十分納得して観終われる作品になっています。
この「砂漠の生霊」を最初に観ていたら、フォード監督のバージョンは随分と感傷的でクリスマス向けのメルヘンに包まれた(究極のピンチにひょっこりとロバまで登場するのですから…)作品に感じるのかもしれません。
ただ、個人的にはハッピーエンドが好きなので、牢屋の鉄格子を挟んで捕まったジョン・ウェインが保安官のウォード・ボンドとチェスに興じるような牧歌的なシーンがある「三人の名付親」のほうにどうしても気持ちが傾いてしまうんですよね。
観る順番って大事ですね。
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