美しいことと老いること
このレビューにはネタバレが含まれています
2021年2月23日 12時07分
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総合評価:
5.0
出会ってしまった
この一言に尽きる。
私自身、この作品に「出会ってしまった」という表現がしっくりくる。
療養のためベニスを訪れた初老の音楽家グスタフは、同じホテルに滞在していた美しい少年タジオに目を奪われる。
作中で二人が会話をする事はなく、ただひたすら遠くから眺めたり、跡をつけたり…
それってストーカーじゃ…
と思うようなシーンばかりだが、大切なものを見失い病に伏した孤独なグスタフにとって、
若く美しく無邪気なタジオは、思わず触れたいと思ってしまうほどに眩しく尊い存在。
二度と手に入らない若さと美しさを欲してしまう様と、自身が老いていくという現実が、セリフはほとんどないもののひしひしと伝わってくる。
タジオに心を奪われてしまう自分を戒めるために、ベニスを去ろうとするが、船の欠航により引き返すことになり、再びベニスへ向かうゴンドラの上でニッコリと笑顔になるグスタフが印象的だ。
ラストシーンは絵画を見ているような芸術的な映像美。
そんな映像と音楽だけでも十分耽美な気分を味わえる作品。