タイトルそのものに、青春のロマンを秘め、末永く語り継がれるべき映画
2024年6月19日 09時42分
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総合評価:
5.0
この映画「いちご白書」は、1960年代後半の大学紛争を描く、我々映画ファンの間では、もはや伝説的な青春映画の傑作だ。
1970年度のカンヌ国際映画祭で、「M★A★S★H」と最後までグランプリを争い、残念ながら敗れたものの、審査員賞を受賞したことでも有名だ。
そして、このタイトルそのものに、青春のロマンを秘めたこの作品は、末永く語り継がれるべき作品でもあると思う。
1970年代というのは、学生運動もヤマを越えたとはいえ、安保がらみの大学立法粉砕闘争で、全国の大学が揺れに揺れていた時代だ。
そんな時代の状況の中で、当時の若者の圧倒的な支持を得た映画としても有名だ。
ボートが水面を滑るように進むシーンからこの映画は始まる。
そのボートのエイトの二番を漕ぐのが、主人公のサイモン(ブルース・デイヴィソン)。
彼は大学のボート部員、ノンポリ学生だ。
彼の大学はストライキ中だ。学校側が、近くの公園に予備将校訓練隊のビルを建てようとしたのが、事件の発端だった。
そして、これに社会不安や政治問題が絡んで、事態は一層、深刻になって来ていた。
サイモンはノンポリだから、ストライキのことは良くわからない。
それでも、友人から大学の本館は女子学生であふれていると聞いて、ノコノコと出かけていく。
そして、この大学構内で、彼は素敵な女の子を見つける。
彼女はリンダ(キム・ダービー)、女性解放委員だった。
ただでさえ、見るもの聞くもの新鮮で、好奇心をかきたてられていたサイモンは、リンダと知り合って、大学構内の闘争生活も更に楽しくなっていく。
どーも、ヘラヘラした闘争青年なのだが、誰でも初めはこんなものかも知れない。
リンダと二人、食料集めに行ったり、抜け出してボートの練習もしたり、ボート仲間を闘争に引っ張り込んだり------。
だが、激しい闘争の巻き添えをくらって、警察に逮捕されたあたりから、サイモンも少しずつ気付いて来る。「これは遊びじゃない」と------。
そして、リンダが彼のもとから去って行ってしまう。
理由は、彼が学生運動をゲームのように考えていると思ったからであり、リンダにはリンダで、ボーイフレンドがいたからでもあったのだ。
こうして、サイモンの心はしだいに追いつめられてくる。
リンダと一緒の楽しい生活はもうない。
しかし、闘争からは身を引けない何かが、心の中にある。
彼は"自分の青春を賭けるべきもの"を、知り始めていたのだ。
そして、サイモンは、"自分との対話"を始める------。
そんな時、反対派のボート部員に殴られて、彼は自分にとって必要なのは、"自分自身のために闘うこと"だと知る。
自分にとって出来ること、出来ないことをはっきり感じ、何をしなければならないかを理解したのだ。
そんなサイモンを待っていたかのように、リンダが彼のもとへ戻ってくる。
サイモンは、彼女と同じ目的に向かって最善の努力を尽くすことに、今まで感じられなかった愛の実感と、生き甲斐とを見つけだすのだ。
そして、二人は自分たちの正しいと信じたことをやり遂げようとする。
仲間たちと腕を組み、協力し、そして、大学側の不正が暴露されて、闘争はエスカレートしていく。
今、大学当局との緊張した状況の中で、同じ目的に向かう二人。
この時、初めて二人は、"真実の愛"を、語り合えたのかも知れない。
しかし、時の歯車は回っていき、この美しい二人にも容赦はなかった。
大学当局が遂に、学生たちの強制排除に踏み切ったのだ。
体育館に立て籠もったサイモンたちに、警官隊と州兵が襲いかかってくる。
催涙ガスが充満し、棍棒が振り下ろされた。
リンダが殴打され、顔が鮮血に染まっていく------。
それを見て、サイモンは初めて、自分から警官隊に飛びかかっていく。
サイモンは、自分の守らねばならぬものを知っていたのだ。
そして、それは、生命を捨てても守らなければならないものを------。
心にズシリと重たいものを残してくれる映画だ。