ショーン・コネリー主演、テレンス・ヤング監督によるシリーズ中の最高傑作
2024年2月23日 17時56分
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総合評価:
5.0
この映画「007 ロシアより愛をこめて」は、1963年製作、ショーン・コネリー主演、テレンス・ヤング監督によるシリーズ中の最高傑作だと思います。
暗闇の庭園の中でいきなりボンドが殺されるという意表をつくシーン(もちろん、後でそれはスペクターの訓練だとわかりますが)から始まる、このシリーズ第2作目は、第1作目に続きテレンス・ヤング監督の作品で、悪役にロバート・ショウ、ロッテ・レーニャ、ブラディク・シェイバル、女スパイのボンドガールにダニエラ・ビアンキという配役で、映画の舞台がトルコのイスタンブールで、しかもオリエント急行も出て来るという、もう全て良しのシリーズ中の最高傑作だと思います。
この007シリーズは後のロジャー・ムーアのボンドの頃は、高性能の新兵器が開発され過ぎてしまったため、どうもマンガチックなものになり、その後、テイモシー・ダルトンのボンドの頃になると、それまでの反省からシリアス路線へと原点回帰しましたが、主役に華がなかったのと、あまりにも地味な内容になりすぎたため、その後のピアース・ブロスナン、現在のダニエル・クレイグと、時代の流れや社会状況を反映させながら、その都度、軌道修正を繰り返しながら現在に至っていると思います。
この映画「007 ロシアより愛をこめて」は、秘密兵器と言えばせいぜいアタッシュ・ケースぐらいで、その分ジェームズ・ボント(ショーン・コネリー)は、自らの頭脳と肉体を使わなければならず、その結果、この映画は荒唐無稽な冒険アクションというより、上質のスパイ・サスペンス映画に仕上がっていると思います。
それは、米ソがまだ冷戦下での対立状態にあった頃の1963年の作品だから、緊張感が映画の中でリアリティを持つ事が出来たのかも知れません。
そして、"夜のシーン"が多いため、グレアム・グリーンやジョン・ル・カレのシビアなスパイ小説の世界を思わせる暗い魅力を秘めているのだと思います。
犯罪組織スペクターは仕事の邪魔になるボンド暗殺計画を立て、暗号解読機と美女タチアナを呼び水にして彼をトルコのイスタンブールに誘い出します。
敵側の殺し屋とのオリエント急行の列車内での息詰まる死闘、ボートでの追撃戦、ヘリコプターからの銃撃戦など、次から次へと繰り広げられる見せ場満載の展開になっていきます。
靴の先に毒針を仕込んでいるスペクターの女殺し屋ローザ・クレップを演じるロッテ・レーニャは演劇界ではクルト・ワイルの奥さんとして広く知られた人で、戦前のドイツでブレヒトらと新しい演劇活動を起こしましたが、ヒトラーににらまれ、その後、アメリカへ亡命したという過去を持つ気骨のある演劇人なのです。
そして、オリエント急行の列車内でボンドと壮絶な死闘を繰り広げる、スペクターの殺し屋を演じたロバート・ショウは、劇作家としても有名なインテリ俳優で、その風貌から悪役を演じる事が多い俳優ですが、この映画での悪役ぶりは、007シリーズ史上最高の悪役ではないかと思います。
また、スペクターの一員で表向きはチェスの名人になるのが、ブラディク・シェイバル。
一度見たら忘れられないポーランド出身の名脇役です。
一方、ボンドを助ける英国情報部トルコ支局長の役を演じた、ペドロ・アルメンダリスも好演だったと思います。
そして、この映画の中で印象に残ったシーンとして、オリエント急行の食堂の中でボンドがイギリスのスパイだと称するロバート・ショウを疑うところがあります。
ロバート・ショウが「舌びらめのムニエルに赤ワイン」を注文したからです。
イギリスのスパイが、魚には白ワインという基本的な作法を知らないはずがないからです。
こういう細かいところにも神経が行き届いているので、嬉しくなってしまいます。
とにかく、007シリーズの生みの親、テレンス・ヤング監督のメリハリの効いた演出で、スパイ・サスペンス映画の原点を心ゆくまで追求していて、ロバート・ショウ、ロッテ・レーニャなどの名優たちの悪役ぶりも見事に決まり、ボンドガールのダニエラ・ビアンキのクール・ビューティも魅力的で、マット・モンローの歌う主題歌も哀愁を帯びた名曲で、いつまでも心に残るというように、どれをとっても申し分なく、あらためてシリーズ最高傑作だと思います。