終身犯
この映画「終身犯」は、獄中で鳥獣学の権威となった男の実話を、限られた空間を生かしたジョン・フランケンハイマー監督の見事な演出と主演のバート・ランカスターの渋い名演で見せる秀作だ。 このバート・ランカスターの主人公は、若い頃、殺人犯として入獄するが、ちょっとした気に入らないことでカッとなり、獄中で看守を殺して終身刑になる。 この二度の殺人に、この男が全く罪の意識を示さないことが、まず第一にアメリカ映画的だ。 彼はただ、この事態を個人の正当な復讐に、国家権力が更に報復をして返しているくらいにしか考えていないように見える。 日本映画で刑務所ものと言えば、そんな経過で囚人になった者が、いかにして自分の罪を自覚するに至るか、というところに狙いが合わされることになるものだが、この主人公は、あくまでも、国家に対立する者としての自分という感じ方を捨てようとはしないのだ。 彼は独房に迷い込んだ小鳥を慰めに育てたのをきっかけに、小鳥の飼育と研究に夢中になる。 そして、小鳥の病気を研究して、全くの独学で鳥の病理学の権威になる。 しかし、囚人が自分の生き方、自分の生き甲斐を独力で探求していくことを、刑務所当局は喜ばない。 規則通りの刑務所生活を彼に強制する。 すると、彼はこれまた、独学の法律知識によって当局をへこまし、マスコミを動員して当局に対抗する。 メイフラワー号以来、あるいは西部開拓時代以来の、"絶対自由人"、"絶対独立人"の伝説がこんなところに生きているような気がする。 だからといって、彼は終始ひねくれ者だったわけではなく、二つの重要な事件を契機にして、彼は人間的にも成長していくことになる。 一つは、いつも彼の方から横柄に呼びつけていた看守に、なぜおまえは人間同士の謙虚な呼びかけの言葉を使わないのかと説教されたことであり、もう一つは自分を溺愛していた母親のエゴイズムを知った時だ。 アメリカ精神のバック・ボーンである"絶対自由人の伝統"を尊重しながら、しかもそれをどうしたら今日の組織化された社会に適応させていけるのか、という今日のアメリカ精神の基本的な問題点の一つが、ここにくっきりと浮き彫りにされていると思う。 そういう意味では、もう一歩のところで、"高度な思想劇"にもなり得るほどの秀作だと思う。 なお、この映画は1962年度の第23回ヴェネチア国際映画祭で最優秀男優賞(バート・ランカスター)、サン・ジョルジョ賞、同年の英国アカデミー賞で最優秀男優賞(国外)を授賞しています。
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