終戦秘話をドキュメンタリータッチで描いた反戦映画の傑作
2024年2月15日 22時37分
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総合評価:
5.0
岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日」は、ポツダム宣言が発表された1945年7月26日から、8月15日の敗戦まで、日本の指導部と軍の中枢部では、どんなドラマが繰り広げられていたかという、"終戦秘話"をドキュメンタリータッチで描いた作品ですね。
この映画は当初、「人間の條件」「切腹」の小林正樹監督で撮影される予定だったものが中止になり、「こういう作品をつくるべきだ」と怒った岡本喜八監督が、東宝の重役に抗議したのが、この映画を引き受けるきっかけになったという逸話が残っており、いかにも岡本喜八監督らしい"戦中派"の思いの詰まった映画になっていると思います。
ポツダム宣言受諾、降伏を決めた8月14日の御前会議後に、徹底抗戦を主張して、昭和天皇の「玉音放送」の録音盤を奪おうとした陸軍の青年将校らの動きを軸に、幾つかの物語が並行して描かれていきます。
もし彼らの反乱が成功していたら、日本は焦土と化していたかもしれないし、国が分裂していたかもしれません。
それほどシリアスなテーマなのですが、決して重苦しい映画ではありません。
「独立愚連隊」など、娯楽アクション戦争映画の快作を生み出した、岡本監督らしいセンスが発揮されているからだと思います。
この映画は、東宝創立35周年記念映画として公開され、後のいわゆる"8.15"ものの記念すべき第1作目となった作品ですが、公開当時は「庶民が出てこない」などの批評が多かったという事ですが、今の時点であらためて観直してみると、"戦中派"の岡本監督の"反戦のメッセージ"が随所に込められているのが、よくわかります。
そして、この映画の見どころの一つはやはり、何といっても豪華なオールスターの競演ですね。
軍人としての信を苦悩の中に貫く阿南陸相を、鬼気迫る演技で示した三船敏郎を筆頭に、鈴木貫太郎首相役の笠智衆の、飄々とした中に見せる貫禄、狂信的な軍人を演じた天本英世の怪演、玉音盤を奪取しようと、一途な狂気に突っ走る畑中少佐を演じた黒沢年男の熱気----、いずれもが光っていたと思います。
そして、特に印象に残るのは、阿南陸相が切腹する前、共に死ぬという部下を押しとどめて言う言葉です。
「死ぬより生き残るほうが、ずっと勇気がいることだぞ----。生き残った人々が二度とこのような惨めな日を迎えないような日本に、何としても再建してもらいたい」
危急存亡の時、指導者の決断の遅れが、いかに悲惨な事態を招いてしまうか。
現在にも通じる教訓が、含まれていると思います。
この映画は、"庶民の戦争"を描いた、岡本喜八監督の自伝的な作品「肉弾」と併せて観て見ると、"戦中派"の岡本監督の反戦への強い思いがわかると思います。