映画ポップコーンの評価
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この映画「第三の男」は、第二次世界大戦が終わったばかりの、ウィーンを舞台に繰り広げられるサスペンス映画の傑作だと思います。 アントン・カラスのテーマ曲の響き、モノクロ撮影の美しさ、名優オーソン・ウェルズの存在感、映画史に残る名セリフと名シーンなど、多くの魅力を持った作品だと思います。 この映画で特筆すべきは、その製作年代でしょう。 なんと第二次世界大戦が終わった4年後の1949年の製作です。 キャロル・リード監督は、第二次世界大戦直後のウィーンを舞台に、戦争の傷跡がそこここに残るウィーンの街で映画を撮影しています。 建物がいきなり砲弾の痕で崩壊していたり、壁に穴が開いていたりするのを見るだけで、もう歴史資料そのものです。 そういう意味では、この映画が持つ混沌とした感じは、一種のドキュメンタリーとしての要素を含んでいるように思います。 そんな戦後の混乱期を舞台に演じられる、闇物資を巡って起きる犯罪事件に巻き込まれた、アメリカ人作家に起こるスリルとサスペンスの物語です。 この映画の基調は、イギリス伝統の探偵小説が持つ味わいであり、それはヒッチコックのサスペンス映画と共通するものですね。 また、この映画は製作年代を反映してモノクロ映画となっていますが、その光と影の深い陰影を捉えたカメラがとても美しい。 そして、この黒白の対比は、物語の錯綜と謎の行方や、正義と悪など、劇としての要素を強く印象付ける、卓越した効果になっていると思います。 それが一番効果を上げているのが、人の影が建物に、怪物めいた巨大な姿となって現れるところでしょうか。 この年代は、モノクロ撮影の末期という事もあって、光と影だけで表現できる映像について、ある種、完成の域にあったのではないでしょうか。 そんな、モノクロ撮影のもつ潜在的な力を再発見させてくれる映画でも有りますね。 しかし、何より感銘を受けたのは、名優オーソン・ウェルズの悪役ハリー・ライムでした。 この金の亡者のような冷酷なアメリカ人を、なんとも魅力的に、愛らしく演じて、この作品の中では、決して多くない出演時間ながら、おいしいところを全て持っていきますね。 このカリスマ的なヒールであれば、アリダ・ヴァリ演じるヒロインでなくとも、夢中にならずにはいられないでしょう。 白黒の画面の中で、輝くような笑顔と、陰鬱な悪を使い分け、その落差の大きさが、単なる悪役にはとどまらない、人間としての業の深さを表しているようです。 これほど魅力的な悪役は、他にちょっと思いつかないほど、強い個性を持っていますね。 これはたぶん、キャロル・リード監督の演出の力もあるのでしょうが、多くをオーソン・ウェルズその人の魅力から、発せられているように思えます。 更に映画音楽史上、最も印象深い曲の一つとして上げられる、アントン・カラスのチターの演奏によるテーマ曲が、この映画のドラマに見事に共鳴して響きます。 このボヘミア調のメロディーが、戦後の無国籍の混沌とした世相の哀調を奏で、その軽快なテンポが、本来重苦しくなるはずのこの映画の陰惨な内容を、どこか軽快に中和し、エンターテインメントとして提供するのにちょうどいい味わいに変えているように思います。 そんなこの映画は「魅力的な悪役」「完璧なテーマ曲」「完成されたモノクロ映像」「歴史的ウィーン」など、見所がいっぱいなんですね。
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