チャン・イーモウ監督の武侠映画
2024年2月11日 17時38分
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総合評価:
3.0
英雄・秦の皇帝の命を狙う刺客を次々と倒した功績で、皇帝への謁見を許された無名という男。
賢明なる皇帝が、刺客たちとの戦いを語る彼の話が真実ではないことに気がついた時、その男は10歩の距離までに迫っていた。
美しい色彩設計、端正な構図、羅生門的な物語構成。
それらがこの作品の品格を高めていることは、間違いない。
しかし、様式にこだわり抜いて見せたこの作品は、そこに足を引きずられたのか、アクションのリズムを刻まない。
ジェット・リー、トニー・レオン、マギー・チャン、チャン・ツィイー、ドニー・イェンという、これだけのアジアの大スターを揃え、これだけのスケールの作品でありながら、最後まで血沸き肉躍ることのない、このアクション娯楽大作は、その一点において作品のあるべき姿を見失っているのではないかと思う。
様式の中に閉じ込められた夢幻的なアクション・シークエンスは、それが生気のないプラスティックのディスプレイのように、自らを閉じ込めたショーケースという枠組みを、突き破りはしない。
窮屈な型に閉じ込められて、物語は最後まで躍動する瞬間を得ることがない。
つまり、様式がアクションのリズムを殺しているのだ。
もちろん、私怨を超えて安定した国家を築く大義を語るのが、この作品のテーマなので怒りや哀しみを押し殺した"枠組み"に納まることを選ぶ「英雄」たちが、そういう窮屈なショーケースの中でしか、その美しくも超絶的なアクションを披露出来ないのは物語的な必然なのかも知れない。
ただ、物語のテーマに忠実であることで、この映画はそれ以上の何かになる可能性を自ら放棄しているのだと思う。
優等生であるが故の、面白味のなさを感じるのだ。
監督のチャン・イーモウは、それまでどんなジャンルの映画でも器用に、巧みな手腕を発揮してきた人だが、この作品でまた、これまでとは違う"武侠映画"というジャンルに挑戦して、一応の成功を収めていると思う。
大地を揺るがす秦の大軍、唸る矢、芸術的な振り付けを施されて宙に舞う剣士たち。
それにしても、それらのシーンが美術館の展示品であるかのようにダイナミズムを欠いているのが、実に惜しいと思う。
そして、この監督が枠に閉じ込めコントロールする発想でしか、アクション映画を撮れないのであれば、彼の体質に合っていない、このジャンルではなく、もっと小味な人間ドラマの路線でいった方がいいように思う。