「告白」を描いた入れ子式の物語
このレビューにはネタバレが含まれています
2021年1月21日 11時43分
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総合評価:
3.0
ある若き小説家がネタにつまり、偶然手に入れたアタッシェケースに入っていた小説をパクってしまうというお話。
彼はそれで成功をおさめるのですが、この作品の面白い点は「それだけ」を描いたものではないところ。
みていると混乱するかもしれません。
「人の小説を奪った青年の物語」が小説となり、その書き手が語るという入れ子式のお話になっています。
恐らくはその書き手自身の体験であろうことが示唆される場面もあり、構成が面白いです。
「青年がうばった物語」は、元々の書き手である老人にとってとても大切なものでした。
タイトルの通り、人生がかかっていたもの。
老人が若いころに書いたそれが、ふとした弾みで失われ、探し求める姿が痛々しかったです。
盗用した作家に対し、老人が「あれは私の物語だ」と言います。
しかし老人が本来言いたかったことは、その小説を書いたことによる成功を奪われたという点ではないでしょう。
小説を捧げるはずが、失ってしまい人生が変わってしまった。
大切なそれを奪われたことに関する言葉であったかと思います。
物語は劇中劇として進んでいますが、その「劇中劇」を書いた本人の姿も印象的でした。