映画ポップコーンの評価
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この映画「ブラックブック」は、ポール・バーホーベン監督が、彼の故国オランダで撮った、戦争と人間ドラマの傑作だ。 全篇を貫くバーホーベン節が物語に絶妙の深みを与え、戦争の真実を描き、面白いの一言に尽きる映画だ。 この世には絶対的な善も絶対的な悪も存在しないし、人間は暴力的で猥雑で、しかも気高いという矛盾した存在なのだというバーホーベン節が炸裂していて、ドイツ人、オランダ人の区別なく、その見つめる視線は冷徹かつ真摯でさえある。 特に、諸行無常な終戦後の状況は、ドイツと同じく敗戦国の日本人として他人事ではない。 この物語の舞台は、1944年、ちょうど「遠すぎた橋」の頃のオランダ北部で、カリス・ファン・ハウテンが、オートミールに十字架を描いて掻き壊してみせるという、勝気なユダヤ人のヒロインを好演していると思う。 連合軍の勢力圏内へ脱出しようとしたところをナチス親衛隊の待ち伏せで、家族を虐殺されたヒロインが、レジスタンスに加わって知る真実とは-----というストーリーなんですね。 けれども、確かな時代考証、時代に翻弄されるがごとく俗人・勇者・悪党が入り乱れて、二転三転するスリリングな展開は、ハラハラ、ドキドキの連続で、映画の醍醐味を堪能できる。 イントロとエンディングに、第二次中東戦争直前の1956年10月のイスラエル人入植地をもってきたのも、隠し味となっていて、おかげで愛人を亡くしたヒロインが「悲しみ苦しみに終わりはないの?」と泣き崩れるシーンでは、目頭が熱くなりましたね。 今に至るまで中東では戦乱が断続的に続いており、つまり彼女は一生涯、緊張と不安に苦しむ人生を送るわけで、そのことを暗示するラストシーンは、実に秀逸だ。 もしかしたら、愛人と小舟に隠れて暮らしていた、終戦直前の10日あまりこそが、ヒロインが女として最も幸せで輝いていた時だったのかも知れません。
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