”to die”からの物語
このレビューにはネタバレが含まれています
2021年2月17日 12時50分
役立ち度:0人
総合評価:
5.0
虚ろな目で空港に向かい、なにも手荷物を持たず日本へ出発した、アメリカ人・アーサー。
彼の目的は青木ヶ原樹海で死ぬことでした。
その絶望感は冒頭でかなり描かれています。
クレジットカードを車に残し、その車もカギをかけず。
そんなアーサーが森のなかでタクミというけがをした男性に出会います。
タクミを演じるのは渡辺謙さん。
物語が始まってすぐ、彼が英語がペラペラな点に不自然さを覚えたのですが、最後まで見るとなんとなく納得できるではないかと思います。
タクミもまた、絶望感を持って森にやってきた、とのこと。
アーサーは彼のけがを手当てするのですが、そこにはアーサーが持つ「命」に対する愛おしさが確かに込められています。
死ぬつもりでやってきた森で、命への愛おしさを感じるのもどこか皮肉で、しかし美しいシーンでした。
アーサーはタクミが森を出るための手伝いをする中、目的はやがて「生きて森から出る」ための死闘へと変わっていきます。
樹海を見上げた時の緑の生命感が美しく、それを思うとその下で死んでいく人たちの無常観を覚えました。
アーサーがなぜ、そこにきたのか。
彼は妻と死別し、生前彼女が残した「あなたが死ぬときは完璧な場所で死んでね」との言葉がきっかけ。
検索エンジンで「完璧な場所」=""perfect place"に彼は"to die"を付けてしまったのです。
物語は樹海のシーンとアーサーの過去とが交互に描かれます。
そこかしこに伏線があり、全てが回収されていくきれいなオチでした。
彼は"to die"を付けて検索することは恐らくないでしょう。
地味な展開ですが、いい作品でした。
ただひとつ気になるのは「アレ」を持ち帰るのは税関的に問題なかったのかなぁというところでしょうか。
音楽も非常によく、物語を活かしています。