稀代の殺人鬼だが、どこか人間臭い榎津巌
2021年2月17日 15時58分
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総合評価:
5.0
この作品を知ったのは、2007年に柳葉敏郎が演じていたリメイク版のドラマ。主人公である榎津巌の壮絶なキャラクターに覚えがあるほかに、昭和映画好きの父親が名作だと言ったのを受けて鑑賞したが、その言葉にウソ偽りなしだった。
昭和38年(1963年)。その当時を震撼させた殺人鬼・榎津巌によって日本中が恐怖におののいていた時代。彼は女性や老人含め5人を殺害して、弁護士や大学教授を騙って様々な人から金をだまし取る詐欺師でもあった。
息をするかの如く詐欺を働き、盗みと殺人も繰り返す男の逃亡劇を描く物語が本作。この榎津のクズっぷりを演じる緒方拳の目力がとにかくすごいです。反面、詐欺働いている時の笑顔と態度が、ある意味ホント清々しいですよ。殺しのシーンも、気づけば「えっ?」と言うくらい、いきなりかかるんです。
また、榎津の狂気を愛してしまう売春宿の女将であるハルさんが哀れで仕方なかった。終戦間近に母親(15年服役後に出所するが売春宿の女衒になる)が犯した殺人のせいで肩身の狭い暮らしを強いられ、身体を売っても醜悪な老婆となって戻った母親の邪魔によって稼ぎが少ない始末。
出会う男も自分をモノや家畜と扱うことに心底嫌気が差した時に、榎津に出会ってしまう。この時、すでに2人の人間を殺して日本中を逃げ回っていた榎津は大学教授として潜り込み、巧みな話術と性技(玉のような汗をぶつけ合うセックスシーンが時折出てくるもんだから、何とも言わぬエロスを漂わせる)を使って宿の人間を手玉に取っていく。
その獣のような絶倫ぶりも相まって普段は優しく接するものだから、ハルさんは完全に榎津に惚れてしまう。だが榎津は生まれの大分県で妻を持っているんです。
これ以上行くとかなりネタバレになるんで、続きは本編を見ることをお勧めします。
<おすすめポイント>
・緒方拳の目力と演技力。
・父親役の三国連太郎(佐藤浩市のお父さん。釣りバカ日誌のスーさん)の哀愁ある演技
・ラストシーンの壮絶さ。
・BGMは少ないが、その部分を補うほどのストーリーの厚みがいい。BGMなくても成立させることができる昭和当時ならではの名作。