優しい「嘘」とその後の物語
このレビューにはネタバレが含まれています
2021年2月13日 13時44分
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総合評価:
4.0
ひきこもりだった鈴木家の長男・浩一。
彼はある日突然自殺してしまいます。
それを見つけた母はショックのあまり気絶し、病院へ。
目を覚ました彼女は浩一が自殺したことを忘れていました。
そこから「鈴木家の嘘」が始まります。
咄嗟に妹が「お兄ちゃんはアルゼンチンに行った」と言うのです。
それは言ってみれば優しい嘘。
アルゼンチンに関わるものを買ってきたり、偽の手紙を書いたり。
そうやって嘘を演じ続けてきた一家。
この作品でとても好感が持てたのは「嘘はばれたけど、一家の絆が深まりました」で終わっていないところです。
この手の作品の場合、そういう展開にして「感動」というところに落とし込むことが多いんですよね。
しかし、実際にそういう立場になったとき、ただそれだけでは終わらないのが本当のところかと思います。
嘘は物語の中でも中盤あたりでバレます。
そこからが本作の魅力。
遺された者の悲しみ。妹の、兄に対する悲しみを秘めた怒り。
自死で遺された家族のそれぞれの想いがきちんと描かれています。
特に妹の心の揺れの描写がとてもいい感じ。
優しい嘘とその後を巧みに描いた良作です。