壁を挟んで父と子がぶつかり合う
2021年8月20日 19時56分
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総合評価:
4.0
孤立・無縁社会をたったひとりで背負ったかのような村井不二男の生きざまを、ベテラン俳優・仲代達矢が深い悲哀を湛えながら演じていました。精神疾患が原因で失業、入院と失踪を繰り返した挙げ句に妻とは離婚、実家に転がり込んで食事は1日1個のコンビニ弁当、生活費は父親の年金。あっという間に最底辺へと転がり落ちていく不二男の息子、義男に扮した北村一輝もいいダメっぷりを披露していますよ。
全編を通してモノクロームの映像が重々しい雰囲気を放っていますが、短くも幸せだった義男の結婚生活の回想シーンになると鮮やかなカラーに切り替わる演出が心憎いです。東日本大震災発生直後の不安感や、復興や東京オリンピック招致の期待感で盛り上がる当時の世相も効果的に絡めています。
自ら生きることを放棄した父親に向かって、分厚い壁越しに懸命の説得を続けていく義男の叫び声は胸に突き刺さるでしょう。命がけで真剣勝負を繰り広げていた親子に待ち受けている、さらなる残酷な現実から目をそらす訳にはいきません。