報われない日常を歌で表現する美しさ!
2020年6月24日 09時55分
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総合評価:
5.0
弱視のセルマは同じく目の見えない息子のために工場のパートで、貯金をしている日々。そんな秘密をある男性に打ち明けてしまい、悲劇が始まります。
天才シンガーソングライター・ビョークの透き通る歌声が全編に使用された、豪華なミュージカル映画でもあり、目の見えないセルマの身の上に起きた不幸を体感し、その生きる力を感じる映画でもあります。
目のほとんど見えないセルマに、「中国の万里の長城は見た?」と問いかける男性。それに対するセルマの答えが「どんな壁でも屋根さえ落ちてこなければ立派なのよ」と返す歌のあたりは、目の見えないということを悲しむのではなく、視点を変えるだけで幸せがたくさん落ちていることに気づかされます。
決して、幸せではないセルマですが、その純粋な心と歌声は忘れられるものではありません。恐怖で死への階段を登るときも、ミュージカルにしてしまう彼女は、素晴らしい強さを持っていると言えるでしょう。
「目が見えない」悲劇から、次第に「金銭を奪った泥棒の濡れぎぬを着せられる」という最大の悲劇にまで転落してしまう様子は、直視できないほどのつらさやダメージを見ている側に与えます。ですが、その逆境をセルマは自分の世界に逃げ込むことで、没頭することで乗り切っていくのです。
現実を直視していないという批判もあるかもしれません。ですが、彼女は他に何が出来たでしょう。せめてこうして嵐が過ぎるのを待つしかないのではないでしょうか。そして、それを責めることは誰にも出来ないと感じます。
ラース・フォン・トリアー監督作品の全編にわたる陰鬱さはありますが、それ以上にビョーク演じるセルマが輝く映画です。絶対に見て欲しい作品となっています。