「ひとりの人間」としての教誨師
このレビューにはネタバレが含まれています
2021年7月20日 22時40分
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総合評価:
4.0
大変印象的な作品でした。
タイトルから「教誨師の教えを受けた死刑囚が心を改める話」といういわゆる「泣かせ系」かと思いました。
しかし、教誨師である佐伯が非常に人間的で魅力ある人物となっています。
彼は清廉潔白ではありません。
兄は過去に殺人を犯し、その後自殺しています。
そういった暗い過去を持ちながら、死刑囚たちと対話をしていきます。
宗教的な対話以外にも、なんでもないような雑談が非常に多いです。
ユニークなのが物語がほぼ対話で進む点。
それぞれの死刑囚も個性があり、対話のみであるのにも関わらず飽きずに観ることができました。
この物語でなんといっても重要なのが高宮と進藤。
高宮は高慢で自身の頭の良さに優越感を覚えています。
対して進藤は文字も読むことができません。
しかし「ものに名前があることの意味」など非常にシンプルな哲学的発言をします。
彼らとの交流を通し、佐伯の心情が変わっていくところもいいです。
この手の作品の場合、最後のスタッフロールで「泣かせる音楽」を流し、台無しにすることが多いです。
しかし、この作品は違いました。
音楽を入れないことで、佐伯、そして物語自体に自分自身の思想で想いを巡らせることができます。
一部不要に感じるシーンもありましたが、全体的によくまとまっている良作です。