インサイダー
アル・パチーノ、ラッセル・クロウ共演の社会派ドラマ。実話を基に、ある大企業の隠蔽工作を告発する人間たちの葛藤を描く。報道局員役のパチーノと、告発者となるクロウの演技合戦が見もの。マイケル・マン監督。人気報道番組のプロデューサー、バーグマンのもとに匿名の書類が届けられる。それは、あるタバコメーカーの極秘ファイルだった。彼はその書類の意味を探るうち、ワイガンドという人物に行き当たるが・・・。
この映画「インサイダー」は、自分を信じ自分を貫こうとする男の美学をクールに熱く語る、マイケル・マン監督の社会派ドラマの傑作だと思います。 「ヒート」、「コラテラル」のマイケル・マン監督が放つ、男同士の死闘をクールに描いた骨太の社会派ドラマですね。 静けさの中にもほとばしる熱気、マイケル・マン監督の抑制された演出が、男達の生きざまを輝かせます。 自分を信じ、自分を貫こうとする男の美学が、我々観る者の心を激しく揺さぶります。 アメリカのCBSの人気報道番組「60ミニッツ」の舞台裏で実際に起きた事件を描いた、実録社会派ドラマで、「60ミニッツ」の敏腕プロデューサー、ローウェル・バーグマン(アル・パチーノ)とタバコ会社の不正を内部告発した、ジェフリー・ワイガンド(ラッセル・クロウ)という二人の実在する男達の熱い戦いを実録タッチで描いています。 2時間38分と長い上映時間ですが、マイケル・マン監督の工夫を凝らした演出が、ピリピリするような緊張感を持続させてくれます。 まず、実話に基づいている事もあって、手持ち撮影によるドキュメンタリー・タッチが実に効果を上げていると思います。 更に、クローズ・アップやスローモーションで画面にメリハリをつけ、バーグマンのジャーナリストとしての信念と、ワイガンドの迷える複雑な心情を鮮やかに映し出していると思います。 このワイガンドが内部告発をする段になって、様々な圧力がかかり、身の危険や家族崩壊の危機にさらされる事になります。 凄まじいまでの葛藤と戦い、ワイガンドは強固な正義心を貫こうとします。 現実問題として、このような過酷な試練にさらされた時、人間は理想というものを貫き通せるものであろうか? 人間は本来は、もっともっと弱いはずだし、このワイガンドの勇気を我々は現実のものとして、受け止められるであろうか?----と、自問自答せざるを得ません。 様々な脅迫に耐えられず、夫から離れていったワイガンドの妻は、現実的な人間らしさを象徴するキャラクターでもあります。 ただ、残念ながら、この女性は丁寧に描かれていたとは言い難く、このドラマの枠外へと追いやられてしまっています。 こう考えてくると、結局のところ、ワイガンドの正義心を前へと突き動かしているのは、"男と男の信頼関係"だったのだと思います。 バーグマンの信念、それは、自分の情報源になってくれる人間を守ってやる事。 これがジャーナリストの鉄則だと信じているのです。 CBSがタバコ会社の圧力に負けて放送が中止になれば、新聞社へ情報を流し、あらゆる手段を使ってでも、この内部告発を世間に伝えようとするのです。 ワイガンドの勇気に報いるために、バーグマンもまた、組織の中での自分の立場を顧みる事などしないのです。 この二人の男の稀有な勇気と信頼が、長く険しい道のりの果て、真実の公開へとたどり着かせるのです。 我々が日頃、享受している「言論の自由」や「報道の自由」は、これら多くの犠牲や努力の上に成り立っているのだと、あらためて痛感させられます。 バーグマンとワイガンドが命を懸けて示してくれた大きな理想。 これは、紛れもなく、れっきとした事実なのです。
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