映画ポップコーンの評価
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この映画「ハムレット」は、イギリスを代表するシェイクスピア役者の名優ローレンス・オリヴィエが、製作・監督・主演をし、自身アカデミー主演男優賞も受賞したハムレット映画の決定版だ。 そして、このウィリアム・シェイクスピアの代表的な舞台劇の映画化にあたり、当時、彼が主催する名門オールド・ヴィク座から多数の舞台役者を招聘し、重厚で見応えのある作品に仕上げていると思う。 暗い画面の中に渦巻く霧が割れて、遥か下方に、陰鬱そのものの様なエルノシア城の望楼が、黒々と浮かび上がってくる。 これが、この映画「ハムレット」の全てを象徴しているように思う。 デンマークの王子ハムレットは、亡き父王の亡霊に出会い、父が暗殺されたことを知り、殺害者で、現国王のクローディアスに復讐を誓う。 そのため、ハムレットは狂気を装うが、誤ってオフィーリアの父ポローニアを殺してしまう。 そして、旅芸人一座に暗殺劇を上演させて、クローディアスの犯罪を突き止めたハムレットは、クローディアスに唆されたレアティーズと試合をするが-------。 この映画化作品は、確かに舞台そのものを模倣しているところがあり、アブストラクトな装置やスモーク、ワンショットが非常に長く、カット数も少ないため、まるで舞台そのものを観ているような気になり、映画を観ていることを忘れさせてくれます。 しかし、ここには、オールド・ヴィク座の舞台での歴史的な成功とはまた違う、オリヴィエの映画的欲望といったものが、もう凄まじいまでの重厚さで埋め込まれていると思う。 例えば、亡き父の亡霊に復讐を誓った後、カメラは亡霊の目になって、事の真相を知らされて絶句するハムレットを見つめながら階段を昇って行く。 また、母親ガートルードとのいさかいの場面に、ハムレットを諫るため自ら登場した亡霊は、その後、またしても、もがき苦しむハムレットを見つめながら、部屋の階段を昇って行く。 どちらも、ハムレットを一人残して亡霊、つまりカメラが階段を後ろ向きに引いて行くショットとなっている。 つまり、ここでは観ている側の我々の視点と亡霊の視点が一体化しているのだ。 そのため、亡霊の目で、この復讐劇全体を眺めるという、稀有な「ハムレット」体験を可能にしてくれていると思う。 そして、この後ろに引いて行くショットは、もう一箇所出てくる。 オフィーリアに「尼寺へ行け!」と暴言を吐いた後、舞台劇ではもっと後の場所なのだが、この映画では、そのまま城の上まで一気に昇って、この劇で最も有名な「生きるべきか死ぬべきか」のモノローグになる。 それはあたかも、亡霊に呼び寄せられたかのように、城の上に出て行く印象を与えている。 つまり、ハムレットは、ここで亡霊と一体化するのだ。 そのため「生きるべきか死ぬべきか」というセリフが口をついて出てくるのだ。 まさに生死をさまようハムレットが、この映画的手法によって表現されているのだと思う。 その他にも、黒と白との息詰まるコントラストや、ナレーションによる独白などで、復讐に焦点を絞った、明晰で、理性的なハムレット像を創ったオリヴィエは、ここでは、舞台ではなく、まさしく"映画のハムレット"を生み出しているのだと思う。
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