アガサ失踪事件の謎に挑戦した映画
2024年2月9日 10時39分
役立ち度:0人
総合評価:
4.0
「アガサ 愛の失踪事件」のラストには、思わず声を上げてしまった。
惚れ惚れするような別離の映像なのだ。
この映画は、ミステリーの女王、アガサ・クリスティ本人をヒロインとした作品だ。
アガサ・クリスティは、1926年に11日間、姿を消した事件がある。
その間、彼女は何をしたのか、また、何のために。
この件は、遂に明らかにされないまま、彼女は世を去った。
この映画は、その謎を推理し、想像し、ある一つの愛のサスペンスを構築する。
ミステリーの女王を素材にして、ミステリーを創り上げようというのだ。
脚本は、キャサリン・タイナン。彼女は、当時の新聞を読み漁り、関係者を尋ねて、謎のパズルを、女性のアングルから解いたのだ。
アガサという女性の謎を追って、女性が物語を創っただけに、全編から滲み出る、ひたむきな女の哀しみが、たまらなく胸を打つ。
アガサ・クリスティを演じるのが、ヴァネッサ・レッドグレーブ。
彼女の作品を愛しているコラムニストが、ダスティン・ホフマン。
彼女が、土壇場の行動に走ろうとする時、身をもって助けるのが彼なのだ。
彼と彼女の間に、密やかな愛の感情が通い合う。
二人の手の動き、目のさばき。内に抑えた愛の表現が、実に心に沁みるのだ。
そして、全てが終わったラスト。迎えに来た人々に連れられ、アガサは、駅のホームに立つ。その反対側のホームに彼。
二人の目が合った瞬間、ホームの間に列車が入って来る。
激しい抱擁をするでもない。しとどな涙を流すのでもない。
だが、これ程までに観る者の胸を締め付ける、美しい"別れ"は、めったい見られない。
アガサ失踪事件の謎に挑戦したこの映画。
その謎の本質を、女の哀しみに絞り込んで、それ故に、観る者の胸を震わせる、愛の映像に昇華したのだ。