映画の面白さと遊び心に徹底している、素敵な映画
2025年4月22日 09時29分
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総合評価:
5.0
このジョージ・ロイ・ヒル監督の「スティング」は、終始、映画の面白さと遊び心に徹底している、素敵な映画でしたね。
大不況下の1936年、禁酒法が解けて、競馬ブームに入りかけていた頃のシカゴのポール・ニューマンとロバート・レッドフォードのコン・メン(詐欺師)が、ニューヨークの残酷なロキティーア(テキ屋)のロバート・ショウの親分から50万ドルを、命懸けで騙し取るというだけのお話ですが、最後には、我々観ている者までが、ペテンにかけられてしまうんですね。
このコン・メンというのは、コンフィデンス(自信、信用)から出た言葉ですが、スイッチ(すり替え)から始まって、競馬のノミ屋全部が偽物という、大掛かりなワイアー(吊り店)に至るまで、人をペテンにかける、コン・メンのテクニックは、奇想天外で、痛快でさえありましたね。
ギャングスターが横行した、この時代にあって、コン・メンは、残虐行為を軽蔑し、粋を誇ったと言うが、その活躍の舞台であった、デラックスな長距離列車や豪華客船は無くなってしまい、愛すべきコン・メン達も今やいなくなりました。
社会の歪みの中にも、何か人間的な余裕があった1930年代の映画が、この映画の公開された1970年代の前半に、盛んに製作されたんですね。
ロバート・レッドフォードだけをとっても、彼は「追憶」、「華麗なるギャツビー」と続けて、"アメリカの失われた時代"である、1930年代を背景にした映画に出演して、ブームを呼んでいましたね。
この年のアカデミー賞で、作品賞、監督賞の呼び声が最も高かった「エクソシスト」が、この「スティング」に敗れ去ったのは、映画の観客が、映画に求めるものは、やはり、面白さであり、明るさであり、スマートさであるという、アメリカらしい選択の結果なのだと思いますね。
尚、この映画の題名の"スティング"とは、俗語で「騙し取る」ことだそうですが、「とどめの一突き」という意味の方が、内容的にぴったりくるような気がします。
デビッド・S・ワードの緻密な脚本は、スコット・ジョプリンのクラシック・ジャズ・ピアノにのって、歯切れよく舞台を展開しながら、最後のスティングに追い上げていますね。