殺人捜査
ローマ市警の殺人課長は、辣腕だが権力をカサに着た傲慢な男。ある日、愛人アグネスと学生パーチェの浮気を知った彼は、口論のあげくに彼女を殺害してしまう。しかも、自ら警察に通報し、殺人の痕跡まで残していく。前夫が容疑者として逮捕されたが、捜査は行き詰まる。現場に残された指紋や証拠品は課長のモノばかり、だが誰一人課長を疑う者はなかった。そんな矢先、有力な目撃者が現われ、課長は犯行を自供するが、警察上層部はその事実を揉み消そうとする・・・。
アカデミー最優秀外国語映画賞、カンヌ映画祭審査員特別賞受賞作のエリオ・ペトリ監督の「殺人捜査」を久し振りに観直しました。 ローマ市警の鬼と言われているエリート警察官が、情婦を殺害し、現場にわざわざ数多くの証拠を残していきます。 だが、誰も彼の犯罪とは気がつかないのです。 やがて、遂に彼は自白するのですが、上司はそれを認めようとしません。 殺人事件そのものを、闇の中へ葬り去ろうとするのです。 この映画は、凄まじいサスペンスに満ちた人間ドラマです。 いわば、現代版ドストエフスキーの「罪と罰」とも言えます。 この映画を観て、私が感じる一番のポイントは、有能なエリート警察官が、権力というものと自分の才能をオーバーラップしてしまう怖さです。 警察権力というのは、民主主義の国においては、国民から警察官が預かって代行しているはずなんですね。 それをえてして間違う警察官がいる。 組織を第一に考えるところから始まる勘違いですね。 制服が優秀なのではなく、その中の人間が優秀であるはずなんです。 映画のラストで、事件の処理をするのに、ブラインドを下ろして、全てを隠してしまう恐ろしさ。 権力というものの怖さをまざまざと、我々に語っています。 この映画でエリート警察官を演じているのがジャン・マリア・ボロンテ。 「荒野の用心棒」や「夕陽のガンマン」にも出演していた、イタリア映画界屈指の名優です。 監督のエリオ・ペトリは、批評家から脚本家になり、さらに記録映画を経験して、映画監督になった人ですが、現実の不安の中に人間の真実を探ろうとする作風で、これまでも「悪い奴ほど手が白い」や「怪奇な恋の物語」など、独特の乾いたタッチの名作を発表し続けてきた監督なんですね。 音楽は、「夕陽のガンマン」などの映画音楽界の巨匠エンニオ・モリコーネ。 イタリア映画ならではの、社会派ドラマの秀作で、映画史に残る一篇だと思います。
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