凄まじいサスペンスに満ちた人間ドラマで現代版ドストエフスキーの「罪と罰」
2024年1月31日 10時21分
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総合評価:
5.0
アカデミー最優秀外国語映画賞、カンヌ映画祭審査員特別賞受賞作のエリオ・ペトリ監督の「殺人捜査」を久し振りに観直しました。
ローマ市警の鬼と言われているエリート警察官が、情婦を殺害し、現場にわざわざ数多くの証拠を残していきます。
だが、誰も彼の犯罪とは気がつかないのです。
やがて、遂に彼は自白するのですが、上司はそれを認めようとしません。
殺人事件そのものを、闇の中へ葬り去ろうとするのです。
この映画は、凄まじいサスペンスに満ちた人間ドラマです。
いわば、現代版ドストエフスキーの「罪と罰」とも言えます。
この映画を観て、私が感じる一番のポイントは、有能なエリート警察官が、権力というものと自分の才能をオーバーラップしてしまう怖さです。
警察権力というのは、民主主義の国においては、国民から警察官が預かって代行しているはずなんですね。
それをえてして間違う警察官がいる。
組織を第一に考えるところから始まる勘違いですね。
制服が優秀なのではなく、その中の人間が優秀であるはずなんです。
映画のラストで、事件の処理をするのに、ブラインドを下ろして、全てを隠してしまう恐ろしさ。
権力というものの怖さをまざまざと、我々に語っています。
この映画でエリート警察官を演じているのがジャン・マリア・ボロンテ。
「荒野の用心棒」や「夕陽のガンマン」にも出演していた、イタリア映画界屈指の名優です。
監督のエリオ・ペトリは、批評家から脚本家になり、さらに記録映画を経験して、映画監督になった人ですが、現実の不安の中に人間の真実を探ろうとする作風で、これまでも「悪い奴ほど手が白い」や「怪奇な恋の物語」など、独特の乾いたタッチの名作を発表し続けてきた監督なんですね。
音楽は、「夕陽のガンマン」などの映画音楽界の巨匠エンニオ・モリコーネ。
イタリア映画ならではの、社会派ドラマの秀作で、映画史に残る一篇だと思います。